HERO GIRL

□私と回想とお正月
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「あ、戻って来たよ。二人」
「本当に取り返してきてる!」




やがて、流星と翔瑠が戻って来た
翔瑠の手には確かに私の巾着が握られていた



「ん。中身は無事だ」
「おお…!」
「よく捕まえられたね?」

「あんな奴に俺が負ける訳ねぇだろ。あっ、勿論ただ取り返しただけで、喧嘩とかしてねーから!」

「別にどっちでもいいよ。地味子の為だもん」



翔瑠から巾着を受け取ると、中を確認する
確かに其処には財布とスマホが入っていた

自分の所に戻ってくると、何だかホッとするな



「ありがとう翔瑠!」
「おう。よかったな」
「流星もねっ」
「もう盗られんじゃねぇぞ」



別に無くなっても、困るものじゃないんだけどね…



「大事なもんだろ、それ」
「え?」
「ヒーローマンストラップ。切れたのにまだ大切にしてるんだろ」
「あ、うん…」




ストラップが切れたのは、サイコパスレディとの戦いの最中だった
昔からとても大切にしていた

これをくれたのは――晃司だったから
だから今も大事にスマホにつけている

翔瑠だってよく知っていることだ
だからこそ、取り返してくれたのだと私は思う




「その古くせぇストラップが何だってんだ?」
「別にいいでしょっ。きっと地味子には大切な思い出なのよ」
「ふーん…瑞希のくまみたいなもんか」
「えっ?」
「な、何でもねぇよ。で、いつまで座ってんだ?」




境内の階段に腰を下ろしたままの私を見て、流星が言った




「甘酒はいいのか?」
「えっと…」
「俺らはもう帰るよ。甘酒は家でも呑めるしな」
「か、翔瑠?」




確かに毎年甘酒は家で作ってるけど、今年もあるって言ってたっけ?
いや、あるんだけどね?



「そうかよ?」
「こいつ、足を痛めてるからな。これ以上悪化したら大変だ」
「え」
「翔瑠、地味子の足に気付いてたの?」



翔瑠にはまだ何も言っていない
足だって今は足袋を履いているし、血で滲んでしまった部分も、今は見えないように巧妙に隠しているつもりだ




「? 当たり前だろ。歩き方が変だし、痛い癖に笑い方は変だし」
「マジか。気づかなかったぜ…」
「お前は瑞希ばっかりに眼が行ってるからだろ」
「あ、当たり前だぁああっ!」
「流星煩い」
「…はい」



何だかよく解らないが、翔瑠にはすべてお見通しのようだ



「ったく。痛いなら痛いってちゃんと言えよな」
「あ、あはは…ごめん」
「お前のそう言うとこ、昔からちっとも変わらねぇよ」



…辛い時とか

悲しい時とか


無理をして、最後の最後まで『助けて』と言わないのは――本当に悪い癖だと思う
だけど、例えギリギリになって叫んでも、手を伸ばしてくれる人が居るのを、私は知っていた



「でも、翔瑠はいつでも私を助けてくれるよね」
「しょうがないだろ。放って置けないし…幼馴染だからな」
「うん、そうだねっ」



――幼馴染だと、平然と彼は嘘を吐く

それがどんなに辛く、苦しいかは、きっと彼女には伝わっていないだろう


彼の表情は、笑っているけれど…



同じ幼馴染と言う関係としては、それがとても悲しそう見えてならない




「翔瑠…」
「ん? なんだ瑞希…」
「――地味子の事、勿論負ぶってくれるのよね?」
「何でそうなる――!?」
「当然でしょ。地味子は足を痛めてるんだもの。一人じゃ立つ事も出来ないわ」
「…俺の眼には地味子が立っているんだが?」




翔瑠の言う通り、私はもう立ち上がれるみたいだ
瑞希ちゃんの絆創膏のお蔭で、痛みは少し和らいでいた




「た、立つことは出来ても、歩くことは出来ないのよ!」
「…まあ、それはそうみたいだな」
「歩けねぇのか?」
「少しずつなら何とか…」
「大変。それでは日が暮れてしまうわ!」
「おーい。まだ昼を回ったとこだぞー」




確かにまだ日が暮れるには早すぎる
と言うか、私は足がどれくらい遅いと思われているんだろうか
流石に近所の神社から自分の家まで、例え足が痛かろうが何時間もかかるほど、軟じゃない

最悪、お父さんに連絡して車を出してもらえばいい
ただし、それはあくまで本当に本当の最後の手段だ




「そう言う訳で翔瑠。地味子を負ぶって帰るのよ」
「はぁ? 何言って…」
「あはは。私は重いからいいよ、翔瑠」
「そう言う訳じゃねぇよ…」



じゃあ渋る理由は何なんだ、と問いかけたい




「そっか。翔瑠じゃ運べないもんね。バスコに比べて力もないし…」



――ピキッ



「…あ? 上等だ。やってやるよ」
「ふふ――決まりね」
「え。ちょ、翔瑠…?」
「早く乗れよ」
「いやいや。この歳でおんぶとか恥ずかしくないっ!?」
「お姫様抱っこの方が良かったか?」
「翔瑠どうしたの!?」



結局、私は根負けして翔瑠におんぶされる形で家に帰った
どうしてこうなった



「おい、瑞希…?」
「カフェの時も思ってたけど、挑発には割と乗るみたいね、彼」
「…時と場合に寄るけどな」
「またね、地味子! 学校で!」



笑顔で手を振る瑞希ちゃんの姿を振り返れば、恨むなんてことは一生出来ない気がした
何あの子、可愛い天使?


でも、この姿がどうにかなるわけでもない
おかげで人の眼は恥ずかしいし、笑われているようで顔が赤くなる
翔瑠は翔瑠で何一つ喋ってくれなかったし…せめて、重いかどうか確認だけさせて?

家に帰ればお父さんは煩いし――やっぱり大吉でもいい事なんてないみたいだ

ついでに言うと、神様は私の願いを叶えてくれないみたいである



『――今年も、皆と一緒に楽しく過ごせますように』




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