HERO GIRL

□私と写真と思い出
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「じゃあ中学の時でいいから見せて?」
「うん、いいよー」



特に躊躇する理由もないと、スマホを簡単に彼女に渡した
中学の時の姿を見ては、やはり晃司の代わり様に未だ信じられない様子である

懐かしい三人の姿を眺めていたら、ふと思い出したように口にしていた




「あ、そうだ。美怜ちゃん」
「んー?」
「私、晃司の事が好きみたい」
「へぇー。そうなんだー…え?」
「え?」
「ええええっ!?」



突然大きな声を出した美怜ちゃんに、思わず肩が跳ねる

何をそんなに驚くことがあったのだろうか
見ている写真にそんな要素があったかな



「今、物凄い事をサラッと言わなかった…!?」
「え。そうかな」
「危うく聞き流すところだったけど!」



ミシリと音を立てる私のスマホを、間一髪取り返す
危うく私のスマホが割れてしまうところだった



「地味子ちゃん…バスコが好きって、マジかよ!? そんなのぜってぇ許さね…」
「きゃああっ。やっとなのね!」



道也が何かを言っていたが、美怜ちゃんのが途端に興奮し出したので良く聞こえなかった

それにしても、やっとって何だろう?



「やっとか」
「やっとねー」
「長かったね」



皆も口々にそんな事を言い出すので、本当に解らなかった
寧ろ、此方が戸惑うばかりだ



「え、えっと…どうしたの、皆?」
「皆知ってたよ。地味子ちゃんがバスコを好きな事」
「えっ」
「其処の馬鹿は、最後まで聞く耳持ってなかったけどな」




其処の馬鹿――道也が床に膝突いて涙を流していた
時にダンッと力強く床を叩いているけれど、何が彼をそうさせているのか全く興味がない



「畜生…! 俺の地味子ちゃんなのに!」
「誰が道也の物だって?」
「お前、一度バスコに殴られて来いよ。少しはマシになるだろその頭」
「ぜって―死ぬ!!」



道也なら、晃司のワンパンで即ノックアウトしそうだ
ついでに気絶でもしてくれたらいい、その方が静かになる



「晃司だけじゃなくて、翔瑠も好きなんだけどー…」
「馬鹿ね。お髭の人が一番に決まってるでしょ。自分で言ったんじゃない」
「うう、そうなのかな」
「自分の発言には責任を持たないとね、地味子ちゃん…」



幾度となく言われた言葉を、まさか蛍介にまで言われるとは思わなかった

自分が自覚したことを友達に報告したまでなのだが、どうして私が責められないといけないのか
しかも美怜ちゃんだけに伝えたつもりが、いつの間にか周知になってしまった

時と場所を考えてなかったと、早くも後悔する




「こいつ馬鹿だな。なぁ瑞希?」
「ぐすっ…漸く気づいてくれてよかった」
「泣いてるー!?」



瑞希ちゃんが感動のあまり泣き出してた
彼女の泣き顔を見るのは本当にレアなんだけど、私の所為で見てしまうのも後味が悪い





――周知となった後、皆の前で晃司や翔瑠に遭遇したこともあった
その時は美怜ちゃんがきゃあきゃあ言い出していたが、次第にそれも鳴りを潜めて行った
瑞希ちゃんが少しだけ苦笑する



「何か、いつもと変わらないね?」
「ホント! もっとベタベタしたらいいのに!」
「ベタベタって何。暑苦しいからやだ」
「恥ずかしいの間違いでは?」




結局、いつも通りのスタンスが二人らしいと言われてしまった
二人じゃなくて、三人なんだけどなぁ…




「何も変わんねぇよ。って言うか選び放題かよ、ビッチじゃあるまいし――」
「言い方!」
「か、変わらないっていいよな!」
「変わったのよ地味子は! 馬鹿なの?」
「ごめんなさい!」



流星が瑞希ちゃんに頭が上がらないのも、いつも通りのスタンスだと思う



「まあ、地味子にしては一歩進んだ方でしょ」
「彼氏彼女になるのは、一体いつになるのかしらねー」
「お、俺は…俺は認めねぇぞっ! お前が地味子ちゃんの彼氏なんて…!」



――あの馬鹿は何やってるのかな?
人を指さすなんて教育がなってないと思う


そもそも彼氏って訳じゃない
結局のところ、私は晃司にも翔瑠にも何も言ってないんだ


…あれ。言うべきタイミングを逃している気がするな




「こ、恐くねーぞっ!」
「何だこいつ? バスコ、もう放って置けよ」
「…っ」
「おい、バスコの奴泣いてるぞ?」
「何で泣いてるんだお前――!?」



ぶわっと泣き出した晃司に、翔瑠が慌てた様に慰めていた
道也は何だか勝ち誇ったような顔をしているし、意味が解らない



「俺は、バスコに勝ったぜ…!!!」
「バ、バスコが勝手に泣き出したんじゃ…?」
「どうしたんだバスコ!」
「…まだ、彼氏なんかじゃない…っ」
「えっ。どういう事なの。地味子。告白したんでしょ?」



美怜ちゃんが不意に聞いて来た




「告白?」
「お髭の人に好きって言ったんでしょ?」
「え、いや。そう言う訳じゃ。単に好きみたいっていう話をしただけで…」
「えーっ。じゃあ今! 今でしょ!」
「何それ虐め?」



本人の居る前で、しかもつい最近あった出来事を蒸し返すのは少し、いやかなり気が引ける
紆余曲折ありながらも、漸く自分の気持ちに気付いたんだ

これ以上私を苦しめないで?
告白なんてそんな難易度の高い事、私には無理だ

それに好きだなんて言葉、よく言ってるから信憑性もないしさ


翔瑠なんかもう苦笑いを浮かべていたし、晃司は未だに泣いていた

あれ、これって私が悪いんだろうか…そうですよね、はい




「好きなら好きって言えばいいだろ」
「うぐぐ…!」
「何でそんなに言いたくねぇんだよ…」
「やめて流星。地味子が可哀想!」
「言いたくないんじゃなくて、言えないのよ。ピュアだから…っ」
「その前に、これって公開処刑じゃねぇの」



ホントそれだ
皆の前で告白とか、最悪な場合はどうしたらいいの

誰もがOKを貰える訳じゃないんだからね?


どうにか告白させようとする美怜ちゃんを説得して、私達はいつもの日常へと戻っていく




「…人の事を言えた義理じゃねぇけど、それでいいのか?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私には無理!」

「何でそう頑ななんだよ…バスコの気持ち、知ってんだろ」
「知ってるからこそだもん。翔瑠は…冗談だったのかもしれないけど」

「は? …おまえ、まさか翔瑠からも?」



勘が鋭いね、流星



「うう…二人とも好きみたいな事は言ったけど、よく考えたらまとめて返事をしたようなもので――えと、あれ、これって私はどうしたらいいの?」

「お、俺に聞くなよ…!」



少なくとも、ややこしい展開になっていることは確かだった


それでも、私は日々成長していて大人になっていく

だからこそ――この恋物語も、いつかはエンディングを迎えるべきなんだ



…いつになるかは解らないけど



今は高校生なのだから、青春を楽しんでいきたい




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