HERO GIRL

□愛と正義のヒーローウーマン@
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撮影は早朝から始まる
スケジュールがかなりギチギチで、朝早くから夜遅くまで撮影する事もザラじゃないようだ

こんな早い時間なのに、其処には沢山の人の姿がある
明らかに通勤・通学する人のスタイルじゃない
その殆どがもう既に死んだ眼をしていた

明らかに生気ない人ばかりだよ
何これ怖い



「『集合は時間厳守』と…うん、余裕持ちすぎて早く着いちゃった」



お爺ちゃん先生の『言いつけメモ』を手に、言われた場所へと足を踏み入れる
撮影現場は慌ただしいと聞いていたが、本当にその通りだと思った



「アシスタント! カメラのデータ移行しといて!」
「エキストラの担当誰だっけぇ? 人数足りないよー!」
「天気がいい内に始めんぞ! 雨はもう止めてくれ!」
「ちょっと。誰か昼の弁当発注してくれたー?」
「おいっ。あの女優さん何処行った!?」
「解りませーん!」



…まるで戦場だ

男も女も関係なく、いろんな人が走り回っては怒号が飛びかっていた
誰が撮影スタッフなのか、演者なのかすらも解らない



「すみませんっ。其処通して!」
「機材が運べないだろ!」
「ご、ごめんなさい…!」
「ちょっと邪魔!」
「すみませんっ!!」




その場に突っ立っているだけでも、邪魔者扱いにされるのがオチだった
私が誰かなんて、気に留める人なんていなかった
それくらい、皆は自分の事や準備でいっぱいいっぱいなんだろう

早くも帰りたくなってきた
でもそれも出来ない

…とりあえず、この中で偉そうな人を探してみよう
お爺ちゃん先生が『撮影現場に入ったら、まずはディレクターを探して挨拶をする』と教えてくれたので、その通りにしなければ




「あのー」
「立ち位置バミってねぇじゃねぇか! あの役立たずが!」
「…すみませーん」
「俳優さんのメイク担当って誰っ!? もう入られてるんだけど!」
「えっ。どこどこっ!?」
「あの人に会う為に、この業界に入ったんだからぁああ!」




駄目だ
ディレクターの居場所を聞くどころか、話しすら聞いてもらえない

忙しい人の手を止めるのも申し訳ないし、とりあえず自力で探すことにする
大人の世界って本当に大変だと、休む間もない人達を眺めては、偉そうな人を探していた

大体偉そうな人って、佇まいというか見た目とオーラで解るよね
ディレクターって言うぐらいだから、きっと髭面で黒いサングラスをした、恐そうな人だよたぶん
肩には長袖のセーターみたいなのを掛けて、胸の辺りで袖を結んでいるんだ
本来の用途にはあり得ない格好だよね

勝手な想像をしつつ、そんな人が居ないか辺りを見渡しながら歩く




「…それで、彼女はどうなった。代役は?」
「全治数週間と聞いてます。今日の撮影は無理なので、勿論代役を立てました」
「まさか高所からの落下とはな…」
「手を滑らせたのは彼女。安全管理が出来ていたかと言うと…コホン」
「お蔭で撮影が少し伸びた。スケジュールがまたキツくなるぞ」




聞こえてきた会話に、ふと足を止めた
会話の内容はよく解らないけど、この二人のオーラは他の人とは違う気がした
何となく偉い人――と言う感じが解る



「しかし、そのスタントの代役と言うのはまだなのか?」
「時間はもうすぐなんで、そろそろかと」
「大丈夫なのか、ディレクター。今日は戦闘シーンだろう」
「知り合いのお墨付きなので、信頼出来るとは思いますが…」



あぁ、やはりこの人で合っているみたいだ



「あ、あのー」
「うん? 君は…」
「お爺ちゃん先生の知り合いの方ですか?」
「お爺ちゃん先生…あぁ、君が地味子ちゃん?」
「はい。名無し地味子です」



ぺこりと頭を下げると、その人は朗らかに笑ってくれた



「今日はよろしく頼むよ。僕がディレクターさ」
「よろしくお願いします」



早くも想像と全然違っていた
完全にラフな格好をしている

でもアロハシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルって…完全に夏を先取りしすぎだろう
あ、サングラスは当たってたわ



「そして此方がプロデューサー。『ヒーローマン』の最高責任者だよ」
「ど、どうも…」
「何だ。まだ子供じゃないか…しかも小さい」




小さい?
私は一応、美怜ちゃんや瑞希ちゃんと肩を並べるぐらいに身長はあるつもりだ
大きすぎず、小さすぎない中間の部類だから、小さいなんて言葉はそう言われない
まあ、ディレクターさんやプロデューサーさんに比べたら、小さいかもしれないけど
二人は男の人だしね



「仕方ない。出来るだけヘマのないようににな」
「は、はぁ…頑張ります」



そして私の想像した格好の主は、こっちだった
最高責任者なら、スーツを着るとかビシッとした感じじゃないのかな
この人もサングラスをしてるし、何なの、偉い人のトレードマーク?
無意味な威圧感しか感じられないんだけど


この二人がこんな格好で、撮影現場は大丈夫なのだろうか
でも、他のスタッフさんとかはTシャツにジーパンとか、動きやすいラフな格好をしているし…これでいいのかも



「君」
「はい」
「彼女にウーマンのアクターを頼む。案内してくれ」
「解りました」




近くに居た女性スタッフを捕まえるなり、ディレクターさんが指示を出した
その人に付いて行って、何やら準備をするらしい
確かにこのままじゃ私のままで、ヒーローウーマンとやらには見えないか

ところで、どうやってヒーローウーマンになるのだろう?




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