HERO GIRL

□愛と正義のヒーローウーマン@
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撮影現場は機材が沢山で、見るものすべてに興味津々だった
ただ、お爺ちゃん先生の言いつけの中に『無暗に機材等、現場の物に触れない事』とある
ちょっと触れようものなら壊れてしまうんじゃないかと、びくびくしながらその人の後に付いて行く

カメラ一台でも十分高価なものだ
それが複数もあれば、コードだけでも随分と足場を撮られる
足をひっかけてしまいそうで、本当に怖かった

おまけに至るところに脚立や梯子、組み立て中のセットなどが所狭しと置いてある
今日は屋外だが、スタジオや室内なんかで撮影する時は、もっとぐちゃぐちゃに入り乱れているそうだ
おまけに人の出入りが激しくて、片付けなんかもままならないと言う




「早く片づけないと、すぐに次のシーンがあるからね。準備もあるしもう大変っ」

「なるほど…」



スタッフさんが疲れた顔でそう教えてくれた
何も知らない私にとても親切だった

親切過ぎて、うっかり撮影現場の裏の顔まで教えてもらいそうになった
私が止めなかったら、きっとマシンガントークが炸裂していたと思う

ひょっとしてストレスなのかな?
流石にまだ業界の闇とやらは知りたくないよ

そして私の案内をさせてしまい、余計に仕事を増やしているのではないかと、とても心配になる




「私はまだいい方よ。撮影準備ならまだいいんだけどね。演者につきっきりの人もいるし…」

「ちょっとー! あたしこんなの頼んでなーい!」



突然そんな声が聞こえてきた
何事かと其方を見ると、一人の女性が必死に頭を下げている

足元には、中身がぶちまけられたカップが転がっている
頭から毛先にかけて水滴が滴り落ちていた
雨が降った訳でないのは私でも解る



「も、申し訳ありません…! 直ぐにお持ちしま――」

「貴女もういいわ。クビだから。ふらふらで顔色悪いし、目の下隈だし、おまけに肌も荒れて可哀想…いっそのことお家で寝たら?」

「えっ…」
「あ。明日から別の人でお願いしまーす」
「そ、そんな…」



椅子に寛いでいた女性が口にする宣告に、彼女の身体は震えていた
全身を襲う絶望感が否めない
しかしざわつく周囲もなんのその、椅子に座る彼女はご機嫌だった
肩、腕、脚、それぞれの部位を男の人達がマッサージしているけれど、何あの待遇?



「またやってる…」
「これで何人目?」
「あの女にクビにされたスタッフも数知れないな」
「ホント我儘な人」
「しっ。聞こえるぞ」
「一応あれでも人気女優だからな…」



スタッフのそんな声を聞きながら、その人が人気女優だということを知る
残念ながら、私は彼女のことを知らないのだけど



「綺麗な人ですね。あの人」
「見た目はね。性格は最悪よ」
「へぇ」



見た目はいいのにちょっと残念な人みたいだ
女優で日「ヒーローマン」のヒロインと言う事らしいけど、彼女がヒーローウーマンなのかな
ちっとも強そうには見えないけど…



「基本的にスタントマンと演者は関わる事がないから、そっと行きましょ。目を合わせないようにね」
「目が合った場合はどうすればいいですか?」
「…えっ」



ジロジロと見ていたのがいけなかったのか、女優さんが物凄い顔で此方を睨んでいる事に気付く
スタッフさんももう少し早く忠告して欲しかったが、もう遅い



「なぁに。あたしに何か用?」
「…すみません」
「誰があんたに聞いたのよ。あたしはそっちの子に聞いたの」



そっちの子――私だった
スタッフさんがいち早く頭を下げたので、私もそれに倣う様に頭を下げる




「すみません。余りにも綺麗だったのでつい」
「あら。解ってるじゃない」



人を不躾に見つめるのはよくないな、ホント

お爺ちゃん先生の言いつけ――『スタッフや現場の人とはトラブルを起こさない事』だ


当たり障りなく褒めてみれば、女優さんは途端に気を良くしたみたいだ



「だぁれ? まさか演者?」
「彼女はヒーローウーマンのスタントの代役です」
「あぁ、あの子の。怪我しちゃったもんねぇ…ふーん」



人をジロジロ見るの良くないけれど、彼女は私をじっと見ていた
ついでに言うと視線が痛い



「スタントマンなのに怪我なんてありえない。実力がなかったのかしらね。お蔭でスケジュールが押して、今日も家に帰るのが遅くなるわ」




女優さんはそう言って、スタッフさんに眼を向ける
聞こえよがしに言っているのがまるわかりだった

それに対し、誰も何も言わない
視線を合わせても、その眼が笑ってないのが見て取れた




「家に帰れない時は、スタッフと一緒に寝泊まりよ。このあたしが」

「こっちだって願い下げー」
「我儘な女」
「聞こえてるけど?」



なるほど、我儘女優とはよく言ったものだ




「あんた。ウーマンの代役って言ったわね」
「は、はい」
「あたしみたいに、美しくしなやかに動きなさいよ」
「はぁ…努力します」




そんな事を言われても、美しくとかしなやかにとか、全然解らないんだけど?




「さっさとスーツ着て、入念に準備運動でもしたら?」



余計な事を言って目を付けられるのも面倒なので、適当に挨拶を終えておこう
案内係のスタッフさんも気が気でないようだ




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