HERO GIRL

□愛と正義のヒーローウーマン@
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「おいおい。子猫ちゃんをそんなに虐めないでおくれ」
「…子猫ちゃん?」



聞こえてきた男の声に、途端に周囲がざわつく



「キミみたいに美しく、しなやかになんて可哀想じゃないか。そうだろう?」
「ウーマンはあたしなのよ?」

「観ている子供にとってはね。でも子猫ちゃんには荷が重すぎる。何故ならキミのように美しく、しなやかに動ける人なんて、この世に二人としていないのだから、ね」

「…よ、よく解ってるじゃない」



思わずポカンとしてしまった
いきなり出てきて、人の事を『子猫ちゃん』呼ばわりして、しかも変な事を言い出したからだ

男の人の登場に、さっきまで高飛車だった彼女も、鳴りを潜めてしまっているではないか




「彼女がごめんね。悪気はないんだ。ただ、あの子が怪我をした所為でちょっとね」
「あの子?」
「余計な事を言わないでよっ」
「はいはい」
「貴方は…誰ですか?」

「「えっ」」



言った後で、しまったと思う
聞くべきことではなかったことは、周囲の反応から明らかだった

もしかしたら、この人も有名な人なのだろうか
テレビなんて殆ど見ないからなぁ



「ふ。僕の顔もまだまだ周知ではないと言う事か。努力が足りないな」
「そんなわけないじゃないっ。貴方は大人気の俳優なのよ!?」
「ありがとうハニー。嬉しいよ。でも安心して。僕にはキミだけだからね」
「今はそれ、辞めて頂戴! オフじゃないんだから!」
「HAHAHA!」



何処かで聞いたような笑いだった

そして、やはり彼もまた人気俳優らしい…
それは失礼な事をしてしまったと頭を下げる



「すみません。知らなくて…」
「嘘でしょっ!? 貴女、この人目当てで引き受けたんじゃないの!?」
「いえ。お饅頭につられて引き受けました」
「はぁっ?!」



女優さんは素っ頓狂な声を出して驚いていた
それに対し、俳優さんは笑っている



「本当にすみません」

「いやいや。気にしてないさ。それにこれ以上ファンが増えたら、ハニーが妬いてしまうよ。まぁ増える一方なんだけどね」
「なるほど。イケメンって奴ですか」
「有り難い事に世の奥様方は、黄色い声で僕を応援してくれるね」
「へぇ…」



あれ、でも『ヒーローマン』は子供が観るって聞いてたんだけどな
もしかしたら子供と一緒に、お母さんも観ている番組なのかも
それなら人気の理由も頷ける



「ところでこの子は誰だい。とてもスタッフには見えないけど」
「知らないで話してたのっ!?」
「あ。代役です」
「代役? あぁ、スタントの。待ってたよ」
「はぁ…」



待っていたとは、どういう事だろうか



「怪我をした子の代わりが、こんなに可愛い子だったなんてね」
「可愛い…?」
「スタントと言っても無理はいけないよ。怪我をしたら大変だ。僕はキミをとても心配するだろう」
「はぁ、どうも。じゃあ心配かけないように、気を付けますね」

「…どうやら、僕の口説きのテクニックも錆がついたようだ」



そう言うなり、何故か俳優さんは肩を竦めていた
もしかしたら、私は彼の言葉に何か反応を示したほうが良かったのだろうか

例えば、そこら辺に居る女性スタッフの様に、顔を紅くするとか
すぐそこの女優さんの様に、肩を震わせてプルプルするとか――あれ、ちょっと怒ってる?



「HAHAHA! もっと深く話したいところだけどね。彼女が怒るからやめておこう」




確かに…綺麗な顔が台無しだ
この人を睨んでいるのか、私を睨んでいるのか、はたまた両方なのか
とにかく、物凄い形相である




「オフの彼女もね、本当に可愛いよ。僕に甘えてくるし、ベタぼれさ。甘いもの好きで、この前なんか8個もケーキを食べてたのさ」

「ほう…それは凄い。何処かで聞いたような話だ」
「聞こえてるわよ! オフの話はもう止めて、今は仕事中なのよっ」




俳優さんと女優さんって、オフの日も会ったりするぐらい、仕事が忙しいんだろうか
それとも、オフの日も会うくらいに仲がいいの?




「本番入りまーす!」
「オンのツンツンしたキミもいいけどね。オフのデレデレなキミにも早く会いたいよ」
「煩いわねっ…早く撮影を終わらせて、ご飯に行きましょっ」
「オーケー。マイハニー」




本番に向かう二人は、既に仕事をする人の顔だった
これが大人の世界か、と思わず感心してしまう




「あの二人が付き合ってるって言うんだから、ホント信じられないわ」
「あんな女の何処がいいんだか」
「…でも、オフの彼女は本当に別人って噂を、聞いたことがあるけど」
「ええー。ツンデレ女優なの?」
「まさかぁ」



へぇ、あの二人って付き合ってるんだ
って事は恋人同士?

とてもそうは見えなかったけど――あぁ、でも、物凄く女優さんの視線が痛かったことは覚えているよ


そして、何処も恋愛事情は大変なんですね…




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