HERO GIRL

□地味子ちゃんと偽地味子ちゃん
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「うーん…」



正直、校長に会う事が躊躇われた
だからこそ、こうして校長室の前で唸っている

扉を開ける勇気が、俺にはなかった



「どうしたんですか、難しい顔をして」
「あっ…おはようございます!」



そんな俺に容赦なく扉は開かれる
姿を現したのは。校長だった
まるで俺が居るのを解っていたかのようだ



「どうぞ。お待ちしていました」
「あぁ、はい。失礼します」



こうなったら腹を括るしかない!
何の用件かは知らないが、聞くだけ聞いて、それから考えよう

中に入ると、居たのは校長だけじゃなかった



「えっ…」
「おはようございます。先生」
「名無しのお父さん?」



其処に居たのは、さっき会った彼女の父親
そして、見知らぬ男がソファに座っていた



「座って下さい。お茶を淹れますから」
「あ、ありがとうございます…??」



何が何だか解らなかった
どうしてこんな朝早くに彼女の父親が?

いや、その前に隣の男は?
俯いて顔を伏せているせいか、誰か解らない

校長、説明してくれ!



「えっと…?」
「先生。私にもおかわりを頂けますか」
「えぇ。構いませんよ」



今の彼は、部下君の言葉を借りれば『仕事モード』
――つまり、刑事として此処に来ている

…え。これって何かヤバい感じ?



「朝早くにすみませんね。歳をとると早くに目が覚めてしまうので」
「い、いえ。あの、それでお話と言うのは…?」



目の前にグラスが置かれた
氷が入っている分、見ているだけで涼しく感じる
室内も程よい気温だったが、じんわりと汗はまだ滲んでいた

そして校長は空いている隣のソファに座ると、四人が向かい合う



「貴方のクラスは、副担任が居ませんでしたね」

「え? えぇ、この学校は、一年生の担任・副担任が、そのまま二年生に上がりますから。場合によっては、欠員の補充もありますけど…」



とある事件をきっかけに、うちの副担任は辞職した

人員不足なのか知らないが、二年生に上がっても『副担任』の席は空いたままだった
お蔭でクラスの事は全部担任任せだ
別にもう一クラスぐらい受け持ってくれる副担任が居ても、いいんじゃないかと思う

なにせ、他にも掛け持ちの副担任はと居るんだから

そうならなかったのは――



「それは校長先生がお決めになられた事と、記憶していますが?」
「はい。副担任の席を空けておいたのは私です」



と言う事は、わざとそうしたことになる
なんでまた…?



「実は、彼を採用する事にしました」



彼――と言って校長が見たのは、相変わらず俯いたままの男だった

顔が見えないから、若いのかそうでないのかも定かではない
男だと解るのは、単に男物のスーツを着ているから
髪も短いってこともあるけれど、身体つきは何だか細いから、女の人みたいだ



「採用…と言う事は、副担任に彼が?」
「えぇ。彼です」
「以前にも教師の経験が?」
「全くないという訳ではありませんが…」



何とも歯切れの悪い返答である



「…? 中途採用と言う事でしょうか。教職は何年目ですか?」



しかし、誰もそれに答えてくれなかった
一応、採用された『彼』に問いかけてみたつもりだが…

あれ、変な事を言っただろうか?



「どうしましょう?」
「いずれ解る事ですから。いいんじゃないでしょうか」
「そうですね」
「?」



校長と刑事の会話に、首を傾げる
何が解る事なんだ



「貴方も。いいですね?」
「…はい」



其処で初めて、彼が声を発した
か細くて聞き取れないくらいだったけれど、俺の耳には――何処か懐かしさを感じた

それからゆっくりと顔を上げて、正面の俺と目が合う


何処かで観た様な顔



「他の先生方には何も伝えていませんが、出来たらフォローしてあげて下さいね」

「え? それってどういう――」

「おや。彼が連れてきた事で、気付きませんか?」



だから何が…



「ほら。お前も挨拶をしろよ。初めが肝心だぞ」
「よろしく、お願いします。…先生」



彼は戸惑いつつも、ほんの少しだけ微笑んだ


何処だっけ、この感じ

やはり感じる懐かしさ



あれは、えぇと…




なんか、古傷が抉られるような――



「…ああああっ!!」



俺の絶叫が木霊して、震える様にカラン、と氷が音を立てた

どうかしましたかって言われたけど、どうかしてるのはあんたの方だと思う!!





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