HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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「まあまあ。気にせず飲んで下さいよ。あ、お注ぎしますよー」
「地味子、何処でそんな事憶えたのっ!?」
「お母さんだけど」
「お母さーん!?」
「…ホントにあの刑事なのか、この人」



思わず呟いていたら、部下君が泣きながらずっと頷いていた
確かにこれじゃ、ショックを隠し切れないのも解る気がするな

そして俺は、ずっと緊張気味だった


その理由は…



「ねぇねぇ、飲んでる? お父さん達の事は、気にしないでいいからね」
「…うん」
「これ美味しいから食べてよっ」
「…うん」
「もー、そればっかり!」



俺はどうして、この人の隣に座らされてるんだ?
あいつは彫り師君の隣だし、その父親は部下君の隣

彼が俺の隣になるのは、半ば自然な事だった
一応、担任と副担任だし…それは解るけど!


いや、気にするな

この人は、あの副担任じゃない。女でもない

そう、男なんだ
全くの別人、新しい副担任が来たと思えばいいんだ…っ!



「お。先生。いい飲みっぷり!」
「…そうだね」
「ぶっ!?」
「先生何やってるんですか。子供ですか。おしぼりどうぞ」
「…おう。さんきゅ」



…目が合ってしまった

折角のビールが台無しだ
ついでにシャツもネクタイも濡れた、はぁ…



「お酒だけじゃなくて、何か食べないと…私の胃袋に入っちゃいますよ?」

「お前、ダイエットは一日ともたずに終わったのか」
「むぐ…っ」
「また『明日から頑張る』か?」
「お兄さん酷いっ、頑張ってるもん、一応!」
「目の前が揚げ物の皿ばっかじゃねぇか」



そう言えばこいつ、ダイエットするとか今朝言ってたな
俺としては、無理なダイエットはお薦めしないんだが…そもそも、こいつは太ってないぞ



「地味子はダイエットしなくても綺麗だよ、大丈夫!」
「お父さん…」
「ちょっとお肉が乗ったくらいで、お父さんは嫌いになんてならないからっ」
「そう言う事を普通に言うお父さんは、嫌いだ」
「ごめんなさいっ!?」



なるほど、二人の上下関係が見えた気がするぞ



「先輩はデリカシーがないんですか。娘さんですよ。女の子ですよ。はぁ、駄目駄目だなぁ…」

「何だとこの野郎。それくらい誰よりも知ってるわ。あと俺、お前の先輩」
「知ってまーす」
「…お前は大丈夫なのか?」



酒の席でオープンになるのはいいが、彼の明日が心配だ…



「あ、これも美味しい! これもー!」
「ダイエットは何処に行った」
「食べた分は、晃司相手に組み手して消化するから、大丈夫!」
「お前も馬場もよくやるよ…」



明日もまた同じ時間にあの公園へ行けば、首手をしている二人の姿が見られるのだろう
まるでアニメかゲームを見ているようだと、何処か懐かしさを感じさせる戦いだ



「最近は新技を研究中なんです。ラッシュを鍛えたら、爆裂拳とか出来るかなぁ…」



お前なら何でも出来そうで、俺は怖いよ
その内、手から気功破みたいなのが出るんじゃないか?
流石にそれはないか…


「いやー。それは多分、仙人に弟子入りしないと無理だと思う」
「…口に出してたか、俺」
「何となくそう言われた気がして?」
「…恐ろしい奴だよ。お前は」



そして何故か嬉しそうに、ありがとうと返された
何処をどう喜んだんだ?



「先生。どうですかうちの娘は」
「どうとは…?」

「うちの娘可愛いから、クラスの男共に言い寄られて、困ったりしてません?」

「…交友関係は広いと思いますよ」

「広すぎて、誰かに盗られないか心配だなぁ。はっ、まさか先生も狙って…!?」

「どうしてそうなるんだ」



まるで脳内お花畑――げふんげふん
娘を溺愛し過ぎる余り、心配性なのだろうか彼は



「最近いつもこうなんですよねー。お嫁に行く、行かないの繰り返しで、ずーっと悩んでるの」

「ぶっ!?」
「お兄さんもですか? はい、おしぼり」
「…おい。相手はどっちだ?」



あんたも何を言い出すんだ?



「どの部分に突っ込んだらいいのか解らないけど、とりあえず全部ないから安心して」

「せめて可愛いってとこだけは、肯定しようねっ!?」

「あんた、もう酔ってんの?」
「あ、ウーロン茶のおかわりくださーい。あとビールもー!」



この父親は、相当娘を溺愛しているようだ
それを軽くあしらう娘の対応も、慣れたものである



「お父さん、お酒弱いからねぇ」
「ふふ…」



――あ、笑った




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