HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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お酒は人を変える
酒に溺れ、人格すらも変えてしまう、恐ろしいものだ

私は大人になったら、こんな風にならないように気をつけようと、自分の父親を眺めて心底思った



「お父さん大丈夫? 水あるよ」
「らいじょうぶらいじょうぶー」
「駄目だこの人。早く何とかしないと…!」



既に呂律が回っていなかった
お父さんは本当にお酒が弱いよねー



「でも、おかしいな。こんなになるまで飲んだことないのに…」

「ストレスが溜まってるんじゃないですかー。俺みたいに」

「お前、ストレスなんかあったのか」
「ありますよっ。っていうか、急に素にならないで下さい!」
「部下が酷いよー、地味子―!」



娘に絡み酒とか、やめてくれないかな?



「ちょっと一発殴って、黙らせますね」
「お前、自分の父親だろ? 一応…」
「父親だからこそ、手加減なしで殴れるから大丈夫ですよ」
「ちょ、本気でやる気かっ。部下君がいるんだしやめとけ!」



一応警察の人間が二人もいるんだからな
…その内一人は、今まさに殴られる寸前だけど



「あー。報告書を書くのは、今日は勘弁してほしいかな」
「部下の人がそう言うなら!」
「はっはっは!」
「はぁ…」
「いつも苦労をおかけします」
「ありがとう、地味子ちゃん」



娘も部下も、大変そうだな

こんな時でも彫り師君は我関せずとビールを口にしているし、彼は――相変わらず表情が読めない
それでもあいつに言われたとおり、少しずつだが食べたり飲んだりはしているみたいだ

さっきは小さく笑っていた
…ちょっとぐらいは、楽しんでくれてるんだろうか



「そっちのあんた、酒は飲めるのか?」



唯一何も知らない彫り師君が話しかける
そんな勇気が俺にもあればいいと、少しだけ羨ましく…いやいや!



「…少しなら」
「ふーん」
「お待たせしました。生三つでーす!」
「え?」
「此処に置いてくださーい!」



店員が持って来たビールジョッキが、嫌がらせの様に彼の前に置かれる
俺も彫り師君も、これにはぎょっとしていた



「ちょっと多いね」
「目の前がちょっとって量じゃねぇぞ…誰だこんなに頼んだの」
「あ、私」
「お前かよっ」



犯人はこいつだったのか



「お酒を飲めば、もっと喋ってくれるかと思って。あ、お父さんみたいに羽目を外さなくていいけどさ」

「あれはタチが悪い」

「あー…無理に飲まなくていい、ですよ?」



何で俺がフォローしてるんだか
あ、俺ジョッキが空になったから一つ貰おう



「先生が全部飲んでくれるから、安心していいってさ」
「そんな事言ってねぇけど?」
「でも先生、結構ペース速いですよね。お酒好きなんですか」
「…飲みたくなる時ぐらい、俺にだってある!」
「お酒に逃げてるんですね」



腹の立つ言い方だけど、あながち否定出来なかった
ずっと緊張していて喉がカラカラだし、ロクにつまみや飯を口にしていないから、酔いが回るのも早い気がした

もういい大人なんだから、自分の限界ぐらい知っておくべきだろうが…



「私は食べたい時に食べます! お兄さんは何にします?」
「そんなにもう食えねぇって」
「あ、もう若くないんでしたね…」
「だからその哀れむような目をやめろ」



お前は俺だけじゃなく、彫り師君も振り回しているのかよ



「あんたも大変だな。こんな手のかかる生徒を持って」
「否定はしない」
「えーっとね。これとこれと、これをくださーい」
「気にも留めてないぞ、こいつ」




平然と追加注文する彼女に、思わず溜息を吐いた
結構な量を頼んでいるけれど、お前一人で食べるんだよな、それ?




時間が過ぎるのは早かった
それなりに自分も楽しんでいたんだと、何杯目かのジョッキを空にする

そして、それなりに酔いも回っていた――…

結局、親睦を深めるようなことを言っていたが、俺は彼と何も話すことはなかった

というか、彼が喋らなさ過ぎた




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