HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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担任と副担任は、お互いになかなか喋る事をしなかった
折角の親睦会なのに、先生ってば何をしてるのかな

戸惑っているのが、情けないほど伝わってくる
一応当事者だもんね、無理もないか

…あ、一番の当事者は私だった

過去の事はすっぱり忘れたから、もういいんだけどさ


同じクラスの担任と副担任だし、どうにかして会話をする機会を作らないと、ずっとギクシャクしたままだ


でも、どうしたら――



「…んー。ちょっとトイレ」
「先輩、大丈夫ですか? ふらついてますけど」

「心配してくれるなら、お前も着いて来てくれてもいいんだよ?」

「嫌ですよ」



席を立ったお父さんは、真っ直ぐに店のトイレに向かって行った
顔は紅いし、足取りは確かにふらついていた

けど、ボサボサ頭に見え隠れするその眼は、確かに『仕事モード』を彷彿させた



「…?」



それが少し気になって、暫くお父さんの後ろ姿を見続ける



「どうしたの地味子ちゃん。先輩は直ぐに帰って来るよ? 寂しくないからね」
「別に寂しいって訳じゃないんですが…」
「あははっ。解ってるよー」
「完全に酔ってますね、部下の人」
「いやいや、そんな事――ん?」



その時、テーブルに遭った部下の人のスマホが震えた
どうやらメッセが来たらしく、首を傾げつつもそれを確認すると――



「…あいたたたた。急にお腹が!」
「おい、大丈夫か?」

「す、すみませんが、俺もちょっとトイレに行ってきます! たぶん長くなりますので!」

「そんな報告はいいから、早く行って来い」
「あ、彫り師君も来てくれていいんだよ?」
「は? 行かねぇよ」



一人で行ってきます…と、明らかに不自然な部下の人の様子に、私もまた首を傾げた
そして、今度は私のスマホが震える番だった


――何故か、お父さんからだった



「…!」



メッセを読んでピンと来た私は、その意図をすぐに理解することが出来た
今日は一段と冴えている気がした
その冴えを補習で活かせればよかったのにとも思った



「うっ」
「おい、お前もどうした?」
「きゅ、急に吐き気が…」
「それは食いすぎだ」



た、確かに私は沢山食べてたけどねっ!



「もしかしたらってこともあるじゃん?」
「相手はあいつらのどっちだ。コラ」
「何でお兄さんがキレてんの?」



嘘に決まって――おっと、演技を続けなければ



「大変だ。お兄さん、今すぐ私をトイレに連れてって!」
「は?」
「早くしないと産まれる気がする」



早く早くと、急かすようにお兄さんの腕を引っ張った
重い腰を上げてくれたお兄さん、ありがとう!



「だ、大丈夫か?」
「あ、先生は此処に居て下さい。決して席を立たないように」
「え?」
「さあさあ、行きましょう。お兄さんっ」
「ったく…意味解んねぇよ」




先生たちが居るテーブルから離れたところまで、お兄さんを引っ張っていく

ちなみに、私のお腹はちっとも痛くない



「おい、トイレはあっちだぞ」
「うん」
「うんって――…あの二人、何かあるのか?」
「何も」
「何だそりゃ」
「何もないからこそ、問題なんだよ」



こうでもしないと、あの二人が話す事なんてないと思うから
だから私は物かげから二人を見守る事にした




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