HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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「…」
「…」



突然テーブルが寂しくなったと、空席をそれぞれ眺めてはその帰還を待ち望む
この沈黙に耐えきれないんだけど

賑やかな店内なのに、このテーブルだけ別世界のようだ



誰か、早く帰って来てー…
あとあいつ、産まれるって何だ

え、冗談だよな?
まだ若いし、そんな…



「…先生」
「は、はい」
「…」



まただ

またこの人は黙ったままだよ



「あのー、何かあるなら、ど、どうぞ?」
「…僕が」
「!」
「僕が居ると、困りますか」



俺はただ戸惑っているだけだ
何しろ接し方が解らない

突然現れて、副担任になって――まだ初日だぞ?



「いや、そう言う訳じゃ…」
「僕は困ります。貴方が居ると」
「…は?」



其処で彼は、此処に来て初めて俺と目を合わせる



「前よりも随分仲良くなっているみたいですね。…狡いなぁ、貴方だけ」

「お前、まだあいつの事――!」
「…嘘です」
「えっ」
「嘘ですよ」
「あ、あはは…なんだ、嘘か。面白いジョークだなぁっ」



ビビったー!
超ビビったー!


こいつ、顔がマジなんだもん

いや、無表情なのは変わりないけどさっ



「半分だけ」
「!?」
「…なんてね」



何こいつ!?

結局どっちなの?



「彼女には感謝していますから。こんな僕に『お帰りなさい』なんて、普通あり得ないでしょう」

「そんな事言ったのか、あいつ…」

「勿論、彼女の父親にもね」
「あの刑事か」

「姉さんはもういないって解ってるから、代わりをする必要はない。僕は僕のままでいい――あの人はそう言ってくれた」




きっと、事件後も彼は気にかけていたんだろう
自分の娘が被害に遭っても尚、更生させ、社会復帰出来るようにと



「そして、やり直すチャンスをくれた」

「…それが、才源高校での再就職か」



前代未聞だよ、全く…
きっとあの校長も、解ってて採用したんだよな

だから、ずっと副担任の席が空いていた

校長って言えば――




「知り合いだったのか?」
「?」
「その…お姉さんの代わりをしてた時から、あの人は君のことを知っていたのか?」

「えぇ。僕の事を全部知った上で、彼はまた居場所を与えてくれたです」



…もしそれが本当なら、何が目的なんだろうか

あの校長の考えが、全く読めない
俺なんかに解る事もないだろうけどな

酒の所為か、彼は饒舌だった
普段もこれくらいコミュニケーションがあれば…


居心地悪くさせてるのは、俺の所為だ

過去にこだわってるのは、俺の方だ



「…まあ、その。お互い色々あるかもしれないけど、これから同僚になる訳だし…宜しく?」

「此方こそ…」



まだまだ余所余所しいけれど、一先ず及第点、か?

そしてほんの少しの笑みに、俺はまた彼女を思い出してしまった

くそっ…! もう飲んで忘れよう!



「…君、もっと表情を前に出したほうが、いいんじゃないか」
「そうですかね…」
「前はもっと…笑ってたじゃないか」
「あれは、姉さんの真似だから」
「やり直すんだろ」
「…」



…しまった。少し言い過ぎたか?
変なお節介をかけてしまっただろうか
別に無理に笑う必要もないんだし…

でも、彼の笑顔を見たいと思う自分が居る…


――って、俺は何を考えてんだ!?

ちょっとだけ、ジョッキを持つ手が震えていた




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