HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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「あ、あれー。先生たち、何を話してるのー?」

「…あんなバレバレな演技じゃなくてもいいけどな」



漸く戻って来たのは、彫り師君とあいつだった



「えっ、何。何の事―?」
「いや…腹は大丈夫なのか、お前?」
「お腹?」
「おい、自分で言って忘れんな」



こそっと彼が耳打ちした



「あ、そっか――うん、大丈夫。この通りピンピンしてるよ!」
「そりゃよかったなー」



やっぱり嘘だったかと呆れる半面、ホッとした自分が居た
産まれるなんてそんな、ねぇ…?

どうせ二人にさせるためだろうけどな



「ふはっ。バレバレだよお前」
「な、ななな何言ってるのー」
「どもり過ぎだ、馬鹿」
「何それ酷い」
「…あれ。それじゃ、あの二人は――?」



先に席を立った彼らは、未だに戻って来ない
部下君も変な演技をしていたし、多分――あの人の仕業…?



「え。お父さん達まだ戻ってないの?」
「いや、戻って来たのは部下の奴だけみたいだぞ」




彫り師君の言う通り、彼は戻って来た
けれど其処に、もう一人の姿はない



「あのー。ちょっと来てくれますか?」
「どうした?」
「何か遭った? お父さんは?」
「その先輩が、表で寝ちゃってまして…」
「おいおい」



酒が弱いと聞いていたが、まさかその所為か?



「でも何で表に?」
「えーっと…酔い覚ましに外に出たみたいです」
「私が行くよ。ぶん殴って起こして来る」
「だからにこやかに言うなよ…」
「時間も遅いし、もう出ましょうか?」



あまり遅いと、こいつが補導されかねないしな

帰り支度を済ませて会計をしようとしたら、もう既に支払い済みと言われて驚いた
お連れの方が――と店員さんが言っているが、そんな事誰も知らない

と言う事は…



「地味子、お父さんの顔腫れてない? 心なしか痛いんだけど」
「蜂にでも刺されたんじゃない」
「えっ。今すぐ病院に行かなきゃ」



自分の娘が殴ったことに気付いていないのか、適当に言った事を鵜呑みにしている
そんな親子の後ろを、恐らく全員が呆れた様子で見ていた



「帰ったら氷嚢作ってあげるよ。それですぐ治るから」
「優しい地味子、お父さんは大好きだよ!」
「酒臭いから離れて」
「照れなくてもいいのに―!」



辛辣な言葉を投げかけても、この父親はポジティブ過ぎだった



「あの、すみません。支払いしてもらったようで…」
「ん? いいのいいの。気にしないで」
「そうだよ。お父さんのお金は、国民の税金で出来てるから」
「先輩、やっぱり俺も払います!」
「要らないからいいよ」



部下君、君のお金も国民の税金で出来てるんだったな



「…僕は此処で」
「おー。気を付けて帰れよ」
「また明日、学校でねー! お休みなさーい!」
「…うん。お休み」



父親はともかく、娘は何でこんなにもフレンドリーなの?

ふと去り際に彼と目が合った



「あぁ、えっと…また明日」
「…はい。また明日」




彼の姿が人混みに紛れてしまうと、ホッと安堵の息を吐いた
俺、まだ緊張してたんだな

でも――

…最初より、ほんの少しだけ距離を縮められただろうか



「おぉっ…!」
「な、何だよ」
「先生、少しは仲良くなれました?」
「…さあな」
「ふーん?」



出来る事なら、そのニヤニヤ顔をやめてくれないか?
しかも親子そろって…仲がいいな、畜生!!




そして、歓迎会の日から数日が経った――



「ねぇ地味子。あの副担任、良く見たらイケメンよ!」
「イケメンセンサーが発動したの?」

「うんっ。物静かでちょっと暗い印象だったけど、ふとした時にみせる笑みが素敵なのよねー!」

「美怜ちゃんの観察眼、恐るべし…!」



生徒の騒がしい声に、思わずそっちを見る
どうやら彼の話題らしい

徐々にだが、人気が出始めているようだ
喜ばしい事だ、顔はイケメンだしな




「そうね。私も朝、髪に花びらがついてるって取ってくれたの。桜並木を通ったからかな」

「さり気ない気遣いが素敵よね!」
「み、瑞希…頭にゴミがついてんぞ?」
「サイテー!!」
「くそっ、イケメンだからって、何しても許されると思うなよ!」
「流星、どうどう」



北原、そう言う気遣いじゃないと思うんだが…
あいつには、デリカシーってのがないんだろうか



「あの人が担任だったら、勉強も頑張れちゃうかも?」
「美怜ったら…」
「ねぇ、それ。本人が居る前で言っていいの?」
「あ、居たんだ先生」
「ずっと居たけどっ!?」



あれ、俺の立場が危ういぞ?
クラスの女子の眼が怖いんだが

お、俺だって…多分イケメンなんだからな…!



「先生も一応イケメンなんだし、我慢しようよ」
「それもそうねー。なんだかんだで先生の事も好きだし」
「よかったね先生。まだ先生の方が人気あるみたい」
「ありがとよ…」



生徒にフォローされる俺って一体…



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