HERO GIRL

□歓迎会と親睦会と復帰記念
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「それじゃ、彼の復帰を祝して…」
「かんぱーい!」
「お父さんが言おうと思ってたのに!?」



高々とジョッキグラスを掲げる、お父さんの音頭を見事に遮っての乾杯
ノリノリなのはお父さんと私の、何だか寂しげな『歓迎&復帰会』の始まりだった



「皆、ノリが悪いですね? ほらほら、先生も乾杯しましょうよ!」
「お、おぉ…って、冷てぇっ!」



グラスが割れそうなくらい力強く乾杯したせいか、私のウーロン茶が先生に掛かっていた



「すみません。全力でグラスがぶつかりましたね」
「お前は加減と言うのを知らないの?」
「何事も全力ですからっ」



そうにこやかに言った私の隣で、彫り師のお兄さんが呟く



「何でこうなってんだ?」
「どうしたんですかお兄さん」
「学校の先生の歓迎会に、何で俺が含まれてんだ」
「人数が多い方が楽しいでしょ」
「俺は面識すらないんだけど?」



じゃあ、これからお知り合いになればいいと思うよ
副担任だけじゃなく、親睦を深める会と思って楽しんでください

あと、ご近所づきあいは大切ですよ



「今日は副担任の歓迎会ですからね。さあ、食べて飲んで!」
「…うん」



彼は小さく頷いただけで、ビールにも箸にも手を付ける気配はない
緊張しているのだろうか
だとしたら、ここは私が盛り上げないと…!

あれ、でも何をどうしたらいいんだ?



「…先生。へるぷみー」
「何だ急に?」
「何か面白い事言って下さい。さあさあ!」
「それなんて無茶ぶり!?」



だって、私にはどうしていいか解らないもん
お酒の席での会話ってな何を話すのかな
いや、そもそも大人の会話に、私が混ざっていいものなの?



「あ、俺も先生の面白い話、聞きたいなー」
「えっ!?」
「先輩も無茶ぶりですか? 可哀想ですよ」
「…えっと。こいつ――いや、名無しのお父さんで、いいんです、よね?」
「何でそんな探り探りなの? 勿論地味子のお父さんです!」



ピースサインをする父親に、先生はとても驚いた顔をしていた



「ほ、本当に…? 別の人を連れてきたんじゃなくて?」
「認めたくないけど、うちのお父さんですよ」
「地味子ってば酷―い」
「…」
「解ります…ショックですよね。先生」
「部下君…」



そう言えば、先生は『休日モード』を見るの初めてだったかな

最近じゃお父さん、色んな人にこの姿を知られているから、毎回驚かれるんだ
部下の人なんて未だに『コレ』が、自分の上司だなんて信じられないみたいだし



「おい。ちゃんと飲んでるか?」
「の、飲んでいいんですか? 一応これって仕事じゃ…」
「仕事?」

「…『彼』を観察するのも仕事の内って、先輩が言ったんじゃないですか」

「あれ、そうだっけ?」



素知らぬ顔でビールを口にするお父さん
何だか聞き捨てならない言葉が聞こえてきたけど…まぁ、いいか



「お前は頭が固いんだよ。こう言う時はぱーっと楽しまなきゃ」
「先輩が緩いんじゃないですか」
「ゆるゆるだよね。『休日モード』だし」
「俺の憧れの先輩は、もう影すらなくなったよ…」



とうとう部下の人からの羨望も無くなってしまったようだ
可哀想に…お父さんも部下の人も



「呑め呑め。全部忘れろ」
「うわーん!」
「部下君、泣き上戸だったのか…」



お酒は人を変えると言うけど、たった数口でこれって部下の人、大丈夫?
お父さんよりも弱いのかな



「…観察って何だよ?」



そして、先程の会話に反応したのはお兄さんだった
彼だけが唯一何も知らない一般人だった!
連れてきたのは私だけどねっ



「あー、これには深い訳が…」
「海よりもね」
「はぁ?」
「すみません。ウーロン茶おかわりくださーい!」



賑やか過ぎるテーブルは、会話が全く絶えなかった




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