HERO GIRLA

□私と友達と飛ばし通帳
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――ワン・ツー・ロー?


――あぁ。パンチ二発、キック一発が基本だ


――ふーん。でも、これって直ぐにパターンを見破られちゃうんじゃない?


――これはあくまで基本だからな


――応用も可能って事? あ、じゃあさ、こんなのどう?


――おぉ! 格好いいな、地味子!





「ワン・ツー」



その掛け声と共に、右・左とパンチを繰り出す
次に来るのはローキック
一度それを受けたなら、神野はそう思っている事だろう



「ロー」



だからこそ、彼は素早く攻撃される左足を引いた
空を切ったローキック
だが、再び晃司は掛け声と共に拳を繰り出す



「ワン・ツー」



お決まりのパターンだと、神野は笑った
右へ左へ、繰り出す拳を完璧に避け切る


そして、またも次に来るのはローキック――の筈だった



「っ!?」



ローではなく、ミドルキックだった
それが見事に命中した
晃司はパターンを変えたのだ

予期せぬ行動に、神野は驚きを隠せないでいるのが見て取れる
キックを警戒してか、バックステップで距離を取り出した


しかし、最後は晃司の方が一枚お上手だったようだ


再び空を切ったかに見えた右脚のローキック
それを軸にして身体ごと左回転させ、相手に背を向けた状態になったところで、強烈な左ブローを顔面に叩き込む!



「…バックスピンブロー」



いつか見せた私の動きを、晃司がそのままトレースしたようだ
勢いよく吹っ飛んだ神野の身体は、備え付けのダーツ台へ


そして――とどめの飛び膝蹴り



「バーンナックルは喰われない」



見事に決まったそれを見て、私は彼の勝利を確信した

それを跡付ける様に、ダーツ台からは『Excellent』の文字が煌びやかに輝いたのだが――



「…いー、えっくす…読めないや」



まだまだ英語の成績は、芳しくないらしい
もっと頑張ろうと思う、うん



「地味子、大丈夫か」



ふらふらになりながら、晃司が此方にやって来た



「晃司こそ…大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だ。鍛えてるからな」

「随分ボコボコにされたみたいだけど…あーあ、ハンカチ何処だっけ。あれ、スマホも何処だろう?」



スカートのポケットを探ると、ハンカチは出てきたが、スマホが行方不明だった
戦っている最中に落としたのだろうか、後で探さないと



「ほら座って。じっとしててね」



流れた血を少しでも拭こうと手を伸ばしたところで、何故かその腕を掴まれた



「ちょっと、じっとしてって…」
「やっと見てくれた」
「は…?」
「あれから、ずっと避けられてばかりだったから」
「…あー、えっと」



そう言えばそうだった
私と晃司は喧嘩中だった

いや、元はと言えば私が変な意地を張っていた所為であって、別に晃司の所為って訳じゃないし

あれ、そうなると私は、全てを認めてしまっているようで――何だか顔が熱くなる
それを誤魔化す様に、私は無理矢理ハンカチを晃司の傷口に押し付けていた

さも抉る様に



「〜〜〜っ!」
「地味子、痛い。あとハンカチが汚れてしまう」
「洗濯したら綺麗になるから気にしないでっ」
「そうか。出来たらもう少し優しくして欲しい」
「善処します!」



それでも私の手当ては、全力で傷口を抉っているようだ
晃司が涙目になるのも時間の問題だろうか



「少し、疲れたな…」
「神野って人、強かったんでしょ?」
「あぁ」



最後の飛び膝蹴りが効いたのだろう
彼は伸びたまま、ピクリとも動かなかった



「…休ませてくれ」
「え、うん。そうだ。あっちにソファが――」



ぐらりと重心が傾いたかと思うと、ゆっくりと此方を倒れ込んで来た
支えるよりも先に、晃司の頭が私の膝の上へ置かれる


――…何故に膝枕?



「えっと…晃司?」
「…」



無視ですか、そうですか



「はー…」



とにもかくにも、晃司が無事だった事に安堵する
晃司の負けはプラタックさんの負けだもんね

負けられない戦いが、其処に会ったって事で、片付いてよかった



「…ごめんね、晃司、変な意地張ってた」
「いや――俺も悪かった」
「ううん、私、ちょっと言い過ぎたかも」
「いや、俺の方が悪い」
「…私が悪いんだよ?」
「俺だ」



どちらも譲らぬ誤り合戦は、不毛な戦いにしか見えてこない
結局それは、私が折れる形で幕を閉じることになる

だって、晃司が意地っ張りすぎるんだもん!



「…ま、いいか」



それで全てが元に戻るのなら――…



「バスコ!」
「助けに来たぞ!」
「蛍介? 流星?」



勢いよく開かれた扉
其処には私の友人達が居て、現状に眼を見開いていた



「待っていたぞ、流星教官」



…教官?



「な、何だよ。これ!」
「これ全部バスコがやったの!?」
「あ、私も」
「って地味子!?」
「瑞希ちゃんと美怜ちゃんまで…」



其処に森永の姿がない事は、言及しなかった
寧ろ忘れていた方が近いのだが



「な、何で此処に居るの?」
「いやー。いろいろあって?」
「その過程が知りたいんだけど…ううん、それよりも!」
「ん?」
「仲直りしたのね!? 素敵!」



仲直り?
何処をどう見て、そんな言葉が――



「膝枕をするなんて、やるじゃない!」
「いや、これには海よりも深い訳が…」
「だから、仲直りなんでしょ?」
「え、いや…仲直り、でいいのかなぁ?」
「俺は仲直りがしたい」
「…はいはい」



もうどうにでもなればいい


あ、コンビニ早く開けないと――!!




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