HERO GIRLA

□私達と飛ばし通帳とその後
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「いやぁ地味子ちゃん、ありがとう」
「店長! もう大丈夫なんですか?」



学校が終わり、いつもの様にバイトに出勤すると何と店長が居た
昨日の今日で大丈夫なのかと、彼の具合を心配する



「うん。一日休んだらすっかり良くなったよ。ぎっくり腰も気を付けないとね」
「ほっ」
「でも地味子ちゃん。無理してお店を開けなくてもよかったのに」



あれからすぐにコンビニを営業した
程なくして蛍ちゃんが出勤してくれて、何とかお店が回る様になっから、本当に助かった



「いいえっ。店長の生活の為ですからっ」
「はは。一日開けないくらいで、僕の生活は危なくならないから大丈夫だよ」
「そ、そうなんですね。結構持ってるんですねっ」
「いや、それほどでもないけど…」
「あ、お客さんだ。いらっしゃいませー」



そんな会話をしながら、いつも通りレジ打ちを行う
何にしても、店長の腰が治ってくれてよかった



「じゃあ、僕はもう帰るけど」
「はいっ。お疲れ様です!」
「頑張ってね。お疲れ様」



ニコニコ顔で彼の帰宅を見送ると、昨日は余り出来なかった掃除や商品の陳列を始める
何かに集中していると、余計な考え事をしなくて済む


例えば森永だ
彼は今日、学校を休んだ
それよりも前からファッ港には来なくなったのだが、飛ばし通帳の事もあるしちょっと心配だ
お父さんにはまだ言ってないから、警察にバレることはないと思うけど――…



「…いけないいけない」



考え事をしなくて済むはずなのに、どうしてもぐるぐると思考が回ってしまう
森永の事はもう済んだことだ
神野に負けた事は悔しいが、私はもっと強くなるべきなんだ

そう割り切って、再び作業に戻る


――ちりん



「いらっしゃいませー」
「ワンッ」



エデンだ



「わぁっ。また来てくれたの? 飼い主の男の子は…」



尻尾をフリフリ、ご機嫌なエデンを撫でる手が、止まった
その背には、ゴッドドッグのあのマークがあった



「ゴッドドッグ…」



…あの神野と同じだった



「ゴッドドッグを知ってるのか?」



顔を上げると、あの男の子が居た
少しだけ怖い顔を見せて、何処か威嚇されているような気がしなくもない

こんな顔もするんだ…と頭の片隅で考えながら、いつもの営業スマイルで対応する



「あ、いらっしゃいませー。えぇと、たまたまそんな人達に遭遇したってだけです」



本当は、巻き込まれたんだけどね



「…」

「エデンが着ている服と同じマークが、あの人達の背中にもありました。…お知り合いですか?」



男の子は、ただ黙ったまま私を見ていた

肯定も否定もしない
どちらとも言えないけれど――多分、知っているんじゃないかと思う

聞いてはいけない事を聞いてるんじゃないかと、私は慌てて話題を変える事にした



「あの、今日もエデンのご飯ですか?」
「いや…」

「そうですか。今丁度切らしてしまってるので、また入荷しておきますね」

「ありがとう」

「次に来た時は、美味しいご飯をあげるからねー」



エデンを撫でながらそう言うと、彼はふっと笑った



「じゃあまた来なきゃな、エデン」
「ワンッ」
「はいっ。お待ちしてますね」
「エデン、帰るぞ」



男の子はそう呼びかけたけれど、エデンは相変わらず私の傍に居座っている
前と一緒だと、思わず笑みが零れた

そう言えば――



「全く…」
「私、名無し 地味子って言います」
「え」
「貴方の名前、知りたいと思って」
「…ヨハンだ」
「ありがとう。また来てねヨハン。サービスしますよ」



営業スマイルではなく、いつもの笑顔で手を振れば、ヨハンはまたふっと笑ってくれた



「面白い奴、か…あの人の言う通りだ」
「ん?」
「また来るよ、地味子」





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