HERO GIRLA

□私とあいつと嵐のデート
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「何で私が好きなの?」
「えっ」

「いや…私を好きになる理由が見つからないと言うか。そう言えば、聞いた事なかったなって」



道也が私を好きだって言い出したのは、何時からだっけ
いや、そもそも好きだなんて言葉を口にしていただろうか

…あれ、今の『好き』ぐらいしかないんじゃないか?



「そもそも道也って、私の事好きだったの?」
「そこからっ!? 俺、結構アピールしてるつもりだったけど!?」
「だって…」

「俺はある時、頭に衝撃を受けたんだっ。そして気付いた。これは『恋』なんだと! そしてそれが地味子ちゃんだったんだ!」

「…あぁ、そんな事もあったね」




随分懐かしいと思った
道也にドロップキックをかましてやった時があったっけ
今まで『地味女』とか言って笑いネタにしていたのに、急に態度が変わったんだ



「俺は地味子ちゃんが好きだぜっ☆」
「…」
「いでででっ!? 無言で親指グキッてやるのやめてっ!?」
「いや、『ぐっ』てされたらそうしたくなる。あとウィンクが気に入らなかった」
「結局気に入らないって事!?」



それほど力を入れていないのだが、涙が出る程ひいひい言い出す道也に笑みが零れる



「道也は凄いね。私には無理かなぁ」
「いてて…な、何で?」

「何でって…『好き』だなんて…女の子によく言えるよ」

「好きなら好きって言えばいいだろ。愛情表現って大事だぜ。あれだ、スキンシップと一緒だ」

「…」



そう言えば、お父さんもよく『好き』だって言うなぁ
私にもだけど、お母さんにも
お母さんは『はいはい』なんて言って適当にあしらっているし、私なんてもうスルーだ
でもお父さんはめげずに何度もそれを口にするから、結局相手にしなきゃなんだけどね



「地味子ちゃんだって美怜や瑞希に『好き』って言うだろ。それと一緒じゃん」
「じゃあ道也も流星や蛍介にそう言うの? ふーん、仲がいいのね」
「待って。その発言はどう捉えていいのかなっ!?」



ヤロー相手に何で俺が!?と必死になる道也
そんな様子じゃ、私もどう返していいのか対応に困るじゃないか



「お、俺が好きなのは地味子ちゃんだぜっ!」
「それはどーも」
「うぐぐ…っ。全くときめいてくれねぇっ」
「ときめきって何。想い出?」
「ゲーム脳に変換されてる!? ぜってー美怜の影響だべ!」




だって美怜ちゃんが貸してくれたゲーム、どんなに攻略しても次々に男の子が出現するんだもん
『全員から告白されるまでは返さないで』なんて言われたら、頑張るしかない
余りにも借りている期間が長いと申し訳ないからだ



「くそー。こう嫌われてちゃ、またデートしてくれなんて言えねぇし、断られるよなぁ…」
「ねぇ。それは心の声? それとも何かのフラグ? ごめんね、私そう言う分岐がよく解らなくて」
「だからゲーム脳に変換するのやめて!?」
「ごめんごめん。えーっと、デートだっけ、別に良いよ」
「いいのっ!?」



思いの外驚かれてしまったが、そんな変な事を言っただろうか
第一、何故断る前提なんだろうか



「だって地味子ちゃん、俺の事嫌いなんじゃ」
「嫌いじゃないよ?」
「えっ」
「道也の事は嫌いじゃないってば。大嫌いでもないよ」
「そ、それって俺の事、好き…!?」
「え。いや、そこまでは…友好、いや、普通…かな。あ、顔見知りの友達だ」
「だからゲーム脳!!」



お願い地味子ちゃん
俺はリアルの人間なんだぜ…!!




――どれくらい其処に居たのか

時間も忘れて私と道也の会話は続いた
ふと雨足が弱まってきたと気づいた頃、見上げた空はまだ鉛色で、どんよりしている
しかし、遠くの空は僅かに明るく光が見え隠れしていた
台風は何処かへ行ってしまったのかもしれない



「うおっ。こんな時間かよ」



スマホを見つめて道也が言う
私も時計を確認すると、随分と長く雨宿りをしていたようだ



「ホントだ。そろそろ行く?」
「あ、うん。せめて家まで送るから!」
「別に今言わなくてもいいよ?」
「だって、地味子ちゃんを送り届けなきゃ」
「何言ってんの。デートしないの?」
「えっ」
「えっ」



思わずオウム返しになってしまった



「これぐらいなら傘差して歩けるだろうし、今なら空いてるんじゃないかな。道也が美味しいケーキ屋さん知ってるって言うから、楽しみにしてたんだけど」

「いや、でも…」

「ほらほら、早く行かないとケーキが無くなっちゃうよっ」
「じゃ、じゃあ、手ぇ繋いでもいいか?」
「は?」
「友達でも手ぐらい繋ぐぜ?」
「そうだけど…」
「俺の事、嫌いじゃないんだよな? 友達なんだよな?」



何だこいつ…!

それでも差し出された手を掴む辺り、私はやっぱり律儀なんだろう
律儀の意味を履き違えている気もするが、手を繋ぐぐらい別に減るもんでもないし、いいか



「〜♪」
「…ごきげんだね」
「隣に地味子ちゃんが居るからなっ」
「あ、そう」
「アメリカとかさ、友達でもハグぐらいするよなっ」
「へー」
「キ、キスだって友達とでもするよなっ」
「ふーん」



道也が投げかける言葉を、私は右から左へ流していた
言葉のキャッチボールって何だっけ?



「…それも友達ならって奴?」
「えっ、いや…」
「するかばーか!!」
「へぶっ!!?」



渾身の一撃を鳩尾に叩き込む



「俺の、天使は…アグレッシブ…」
「天使って何」



ついでに、この台風で殆どのお店が休業していた
勿論、ケーキのお店もだ

この台風じゃ当然と言えば当然なんだけど――



「あうあう…」



…地味子ちゃんの頭にはなかったんだろうか

ま、其処も可愛いんだけどなっ!




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