HERO GIRL

□私と雨とあの日の君
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雨は、帰る頃にもまだ降っていた
昇降口から、地味子は困ったように雨空を見上げる




「誰よ、人の傘を持って帰ったのは…」




コンビニで買ったビニール傘だから仕方がないと、何度目かの溜息を吐く
この雨の中、走って帰るのは遠慮したい
制服を汚せば母親が怒るだろうし、何より紙袋を濡らしたくない




「せっかく四宮に借りたんだから、濡らしたら駄目だよね」




帰ったら夕飯まで読み耽っていようと、腕の中に抱えたそれを見下ろす
しかし、雨は止むことなく降り続けていた
一体いつになったら帰れるのだろうか…

生憎スマホは充電が切れてしまっている
何て運が悪いのだろうか、瑞希から教えてもらったSNSサイトに夢中になった結果がこれだ
今度から充電器を持ち歩いておくことにしよう…

そう考えてまた溜息を吐く




「あ。四宮、また明日―」
「?」
「え? あぁ…帰るよ。うん、雨が止んだら」




靴を履き替える四宮が見えたので、声を掛ける
すると彼は不思議そうに首を傾げた




「夜までやまないって? え、そうなの? あぁ…そうなんだ」




お天気お姉さんは、そんな事一言も言ってなかった――
降雨量が多く、確かに止む気配はなさそうだ、残念ながら




「傘? うん、朝は持ってきたけど。ビニール傘だったから。多分誰かが持って行ったんだと思う」
「!?」
「いやー。普段だったら走って帰るんだけどね。これ借りたからちょっと無理かな」
「!!?」




紙袋を示せば、何故か四宮は肩を落としていた

こんな雨の日に持ってきた事を、申し訳なく思っているらしい…
彼が責任を感じる必要は何処にもないのだが

すると、何を思ったのか四宮が自分の傘を差し出してきた
使え、とでも言いたいらしいが――では、自分はどうするのだろうか




「四宮、もしかして…もう一本あったりするの?」
「(ふるふる)」





ないのか、と地味子は苦笑した
彼がとても優しい事をよく解っているため、その気持ちだけでも有り難い




「私の事は気にしないで。もうちょっとここに居るよ。もしかしたら止むかもしれないし」
「…」

「いやいや、ほんとに。私の家、此処から近い…訳でもないけど、うん。親に連絡すれば――あ、充電なかったんだっけ」

「!?」
「とにかく大丈夫だから、先に帰っていいよ。ありがとね」




少しだけ悩んだが、どうやら解ってくれたようだ

バサッと傘が円を描いたのを見て、その背中にさよならと手を振る




「また明日ね」




四宮も振り返って手を振る――のだが、それはバイバイには見えない
その手は、まるで手招きをしているようだと思った




「四宮?」




スッと自分の足元を指さしたのを見て、もしかして――と思う




「入れてくれるの?」
「(こくっ)」

「おぉ、当たった…じゃなくてっ。家って確か私と反対方向じゃない?」




記憶違いでなければ、学校を出たあたりですぐに背を向け合ったと思う
わざわざ遠回りをさせてしまう事を考えると、傘に入ることが憚られる
うーとか、あーとかいろいろ考えている事に十数秒も費やしてしまった



「…ふぅ」




すると、痺れを切らしたのか、四宮は小さく溜息を吐く
お、これも珍しい…そう思っていると、突然地味子の腕を引いた




「えっ…っとと!」




意外と力強いそれに少しだけ驚くと、思わず近づいたその顔を見つめてしまった
前髪で見えないけれど、その向こうには確かに澄んだ双眼がある
綺麗な目をしている――そう素直にそう思った

――大丈夫、と彼は笑った気がした




「本当にいいの?」
「(ニコニコ)」

「…じゃ、じゃあ、お願いします――あっ、コンビニまででいいから!」




最後にそう付け加えたものの、四宮は聞き入れてくれただろうか
二人並んで校舎を出ると、強い雨音が傘を叩いた
これは確かに四宮に感謝すべきだ
そして傘を持って行った誰かを物凄く恨みたい




「翔瑠?」
「…リア充だ」




相合傘をする男女を見て、とある男子生徒が呟いた
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