HERO GIRL

□私の夏休みと水玉
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買って貰ったスマートフォンは、まだまだ新しさを感じさせる
最近は少しずつそれを使う機会が増えていた

電話帳を開けば、まだ少ない人の名前
その中で、まだ見慣れない女の子の名前が二つある

美怜と瑞希
最近仲良くなった友達――そう、女の子だ




「ふふふ…」




ベッドの上に寝転び、何の用事もないのにその名前を見てはにやける
誰かが見ればそれは、気味の悪い姿に他ならないだろう
メッセに増えた名前に、またにやけてしまう


ポンッ




「うわっ!?」




いきなりメッセージ通知が来たことで、地味子はびくっと肩を震わせた
お蔭で手からスマホが離れてしまった
布団の上に落ちたから壊れてないのはよかった

一体誰だろうと内容を確認すると――




『やっほー。ねぇねぇ、今から遊ばない? ゲーセンとかどう?』




美怜からのメッセだった
思わずぱちくりと目を瞬かせ、テストの時以上に内容を読み解く




「えっ、えっ。遊びに…えっ」




気が動転しそうだった
まさか遊びに誘われるとは思いもしなかったのだ

今日はバイトもなく、特に予定もない
午後の時間帯は天気もよく、外に出るにはもってこいだった




「と、とにかく、返事――うん、行く…っと。送信!」



ポンッ



「はやっ!」



そしてまた、通知音が届く
送ってまだ何秒も経ってないのに――




『よかった。瑞希と流星もいるんだー♪ じゃあ2時に駅前で待ってるね!』

「2時…」




ちらっと時計を確認する
まだ1時だ、今から着替えて準備しても十分間に合う
駅前ならそう遠くない。問題は…




「お…おかあさあああんっ!!」



友達と遊びに行く
しかも女の子と――

久しぶりの難易度Maxなミッションに、地味子は『強力な味方』を召還した――




「お友達と遊びに行く。貴女からそんな言葉を聞けるなんて――」




母は泣いていた
それはもう、号泣だ

昔も遊びに行くときは『○○と遊んでくる―』と告げていたが…

…あぁ、あれは全部男の子だ




「お母さん、ジャージどこー?」
「ジャージで行く気!?」
「え、だって楽だし…」

「ジャージは筋トレだけって約束でしょう!」




鬼だ。鬼がいる…

筋トレの際は常にジャージを着用している
動きやすい服は、今これだけしかないのだ

部屋着は四宮に買って貰った服の中から選んでいる
母がせっかくの服が無駄になる、と言うからだ

今もなお母親に服を選んでもらっている高校生は、何処を探しても地味子しかいないと思う
自分で選ぶよりも母のセンスの方がいいと解っているからだ

ただし、ジャージだけは譲れない


自分より貴女の方がウキウキじゃないですか、お母さん…




「美怜ちゃんだっけ?」
「うん、あと瑞希ちゃん。流星も一緒」
「…流星?」
「瑞希ちゃんの幼馴染だって」




どうやら男の子もいるらしいが――娘にしては良い進歩だと思う

地味子の部屋にあるクローゼットを開ければ、一度も着たことのない服がずらりと並んでいた
全部貰い物だというそれらは、どれをとってもブランドものばかり
当初は女の子らしい姿が見られると思っていたが、私服を着る機会など娘には皆無だ
何せ、殆どがジャージか制服
休日に至っては、やはりジャージでいつもの筋トレ

年頃の娘がこれでいいのだろうか…と泣きたくなる


コスメに至っては、数カ月たった今も全然減る気配がない
母親でさえも持っていない新作や新色
それらは新品同様で、とりあえず学校に行く時だけは、きちんと母との約束を守っているようだ





「何処で遊ぶとか聞いたの?」
「ショッピングとゲーセンだって。駅前だからたぶんそこらへん」
「あぁ…」





近年人で賑わう駅前には、ちょっとした繁華街が広がっている
ちなみにショッピングモールもその界隈だ
若者たちが集い、集客率も年々伸びているらしい
おかげでちょっとガラの悪い人たちも増えているそうだが――




「あまり遅くならないようにね。遅くなるなら連絡して」
「解ってるよぅ」




過保護なのは昔から変わらない
それだけ自分を想ってくれているのだろう

親は大事にするのが優しい人の心得だ





「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ気をつけて。いってらっしゃい」
「いってきまーす!」




家を出ると、さんさんと降り注ぐ光に目を細める



「あっつい」




太陽がじりじりと照り付けてくる
露出を控えめに選んだ服だが、手や足に日焼け止めクリームを散々塗りたくられた
ヒラヒラした服は嫌いだが、母が余りにも嬉しそうだから仕方がなくスカートを履いた
あれこれ何を着るか、いつかの着せ替え人形のようだった

家を出る前からちょっとお疲れだ




「もう夏休みかぁ…」 





入学してから数カ月が経っていた
高校生活にも慣れ、いつの間にか一学期が終わっていた

宿題が山ほど出されたが、どれもまだ手を付けていない
何せ、学校に縛られなくなった今、早朝の筋トレは時間を気にせず行えるのだ

それを翔瑠に言ったら、『バスコと同じだ』と言われた
どうやら晃司も同じことを翔瑠に言ったらしい
似た者同士でちょっと嬉しかった






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