HERO GIRL

□私とパンと先生
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キーンコーンカーンコーン…



一日でこの鐘の音を聴くのは何度目だろう
数えるのも面倒だが、この時間だけは違う

鐘が鳴り終わると同時に、パッと頭は覚醒した
今こそ目覚める時だと!!




ガバッ!




「お昼!!」
「名無し―。あとで職員室来なさーい」
「嫌です。食堂が私を待っているので!」
「授業中寝てた奴が何を言う。いいから来い。5分以内に」





先生、いつもより厳しすぎやしませんかね…

ガクッと肩を落とせば、誰かがポンポンと肩を叩いてくれた
誰だろう、すっごく優しいね…

見ると、道也が物凄い良い笑顔で親指を立てていた
片目をウィンクとかマジないわー
その指圧し折ってやりたいわー…うん、そうしよう




「えいっ」
「ちょ、まっ、親指グキッて言っだああああああああ!!!!」
「道也うるさーい」
「やったの地味子ちゃんだよねっ!?」




性懲りもなく道也はちゃん付けで呼んでる
まあ名前で呼べと言ったのは自分だから、しょうがないとそれは許すことにした




「流石にあの先生の授業で寝るのは、やめたほうがいいよー」
「美怜ちゃん…楽しくない話は聞かずに寝た方がいいと思うんだ」
「うん、それだと午前の授業は全部そうなるね」
「じゃあ睡眠学習だよ」
「じゃあって何。馬鹿なこと言ってないで、早く職員室行きなよー」





今日は美怜ちゃんも冷たいね、と地味子は涙を流して立ち上がった
すると、一徹が道也に声を掛ける




「おう道也。地味子なんかと喋ってねぇで行こうぜ」
「てめぇ…地味子っつうな。言ったべ? 地味子ちゃんだ!」
「ぁあっ!?」




メンチを切る道也だが、それにも負けじと濃ゆい顔で一徹が応戦する
うん、どっちもどっちだ




「いいよ道也―。その人には名前呼ばれたくないもん」
「えっ。って事は…俺は特別!? て、照れるぜ…」
「美怜ちゃん、職員室行ってから食堂行くねーっ」
「(無視された!!!)」
「はーい! あっ、蛍介。一緒にいこぉよぉー」
「う、うん」




空腹を我慢して、地味子は教室を出た
職員室に行くまでの道のりが果てしなく遠い
このまま廊下で飢え死にしたらどうしよう――あの先生を恨もう、うん





「先生―。来ましたよー…って、うわっ。ご飯食べてる!」
「先生だってご飯くらい食べるさ」
「でも菓子パンとか食パンとか…どんだけパン好きなんですか。餡子詰まったパンヒーローですか」
「先生は耳があるパンヒーローが好きだ。イケメンだし」




教職員机の上はコンビニやスーパーの袋があり、その中には数々のパンがてんこ盛りだ
お昼ご飯はパン派らしい
力出なさそうなのになぁ…




「ちなみに朝食はパン派だぞ」
「それって朝も食べてきたってことですよね。何それ怖い…うわ、しかもこの量。一個下さい」
「おう。でもあげないぞ。お説教があるからな」
「お説教が終わったら食べていいんですよね? 私が!」
「いや、食べながらお説教するから、終わる頃には俺の胃袋の中だ」
「何それ酷い」




そんな教師と生徒のやり取りは、当初の目的とはかけ離れていた事に、二人は気付かない
だからこそ、痺れを切らした隣の先生が声を掛ける




「先生…お説教をするのでしょう?」
「あぁ、そうでしたそうでした! はっはっは!!」
「美人に鼻の下を伸ばすって、こう言う事なんですねー」
「うむ! 何せ彼女は美人だからな!」
「…お昼休み、終わりますよ?」




優しそうな女の先生は、一向に進まないその会話に小さく囁く
美人と言われても、彼女の表情は一変たりとも変わらなかった
か細い声も、豪快に笑うこの男にかかれば一瞬でかき消されてしまう
ちなみにクラスの担任はこの男だったりする




「おう、いかんいかん…いいかぁ、授業中に寝るとは何事だ。学生の本分は勉強なんだぞ」
「だって先生の授業、眠たいんです」
「お前本人を前によく言えるねっ!?」
「あと、朝早く起きるから眠いんです。健康的でしょ?」
「それって建築学科の奴と筋トレしてるからだろ!? 先生知ってるからな!」




Oh…どうして知っているのだろう

秘密って訳ではないが、あの時間に起きているのは新聞配達か朝練をする人じゃないか




「うわっ…生徒のプライベートを覗くとかどうかしてますよ!」
「俺の通勤ルートでよく見かけるんだよ、お前らをなぁっ!」
「随分朝が早いんですね」
「アレってただの殴り合いじゃね!? 馬場相手にお前凄いな!!」
「先生…声が大きいです…」




貴女は小さめですね、副担任さん
コホン、と咳払いを一つして、担任は声を潜めた




「あれだ…お前が『地味子ちゃん』なんだろ?」
「…おっふ。何で知ってるんですか。って言うか見たんですか」
「バッチリと」




と言う事はつまり…水玉も見られたということだ
あぁ、この人も親指を立てている…圧し折ったら退学かな




「…そんな軽蔑するような目で先生を見るなよ」
「いやぁ、だって、ねぇ?」
「あんな動画を撮られる方が悪い。というか、普通の女子高生はドロップキックなんてしない」
「私は普通じゃないんですよ。なにせヒーローですから」




そうやってドヤ顔を決める地味子




「うん。腹が減りすぎて妄想癖かな?」
「やだ素敵。先生このパンいただきますね」
「待てっ、それは最後に食べようと思っていた奴…!!!」

「先生…ほかの先生方も見ています。名無しさん、今後は気をつけましょうね。居眠りもヒーローごっこも」
「はぁい…もぐもぐ…」




ヒーローごっこじゃないんだけどなぁ…もぐもぐ…

担任が目を見開いて此方を見てくる
あれ、泣きそう? 駄目だよ泣いたら…男でしょ

うん、なかなか美味しいねこれ
先生が最後に食べようと思ってたのがよく解るよ




「じゃあ、もういいですよ…」
「えっ。ちょ、先生?? まだ話は終わって――」
「では、失礼しまーす!」
「あぁっ、あいつ俺のパン持って行きやがった!」
「先生…高カロリーに気をつけましょうね…」





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