HERO GIRL

□私と幼馴染と謝罪
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ど、どうしてこうなったんだろう…

ヴォーカルダンス学科 今 敏斗はこれ以上ないくらいに困惑していた
友達の森永から一緒に食べようと誘われた先に行けば、何とあのイケメンで有名な転校生が居た
森永、どうして僕を誘ったんだい…




「僕、長谷川蛍介って言うんだ。よろしくね!」
「う、うん…」




転校生は僕みたいなやつでも嫌悪な顔を見せなかった
普段なら、傍に居るだけで格好の手気になるのに…




「敏斗。蛍介は僕の友達なんだぜ!」
「へ、へぇ。そうなんだ」




どうして森永が偉そうにしているのかは置いといて――
長谷川蛍介と言う人物は、思った以上にいい人なんだと思う
こうして話しかけてくれるのは凄く嬉しかった

いつもなら、この時間は苦痛で仕方がない
ゆっくりお昼ご飯を食べるなんて、どれぐらいぶりだろう?
それに…いろんな意味で注目されているのがよく解った

彼は――蛍介は、イケメンだから
女の子の視線が集まっているのは解る
黄色い声があちこちから飛んでいるのも良く聞こえる

やっぱり別世界の人間だ――と、敏斗は思った




「ぼ、僕なんかが此処に居ていいのかな…」
「敏斗? もう食べないの?」
「う、うん、食べるよ」




だけど平穏な時間に終わりは、突然告げられた



カコォオン!!


「!!?」

「おい、敏斗…てめぇ。気に入らねぇ」





自分の前で、何かが音を立てて跳ねた
それが学食のコップだと気づいたのは、床にコロコロと転がった時だ
飛んできた方向を見れば、同じ学科の埼玉貴仁が仲間を引き連れていた
怒った様子の彼に、敏斗は自分の身体が強張るのを感じた




「噂の転校生とつるみやがって…俺への当てつけかよ。あぁ?」
「そ、そんなつもりじゃ…っ」
「(う、うわーっ。なんかグラサンかけた怖い人だ!)」




蛍介、森永、敏斗はその男を見ては恐怖していた
埼玉貴仁は、何かにつけて敏斗に因縁をつけ、虐めていた




「あんな転校生より、俺の方がイケメンだろ?」

「「(グラサン外さない事には何とも…)」」





両隣のPPPメンバーは、二人して同じような事を思った




「そう言うのってさぁ、グラサン外してから言えって感じよねー」
「はぁっ!? 今言ったやつ誰だ!!」
「あ、私だけど」




スッと挙げられた手に、ぎょっとしたのは何故か貴仁だった
その人物を目にした時、蛍介が小さく声を上げた




「あっ…!」
「蛍介、知り合い?」
「うん。同じクラスなんだ」




改めて敏斗の目に映る女子を見る




「てめぇ、地味子か…」
「ねぇねぇグラサン君」
「グラサン君!?」
「マナーは守ろうよ。コップ投げるとかありえないから」





物怖じせずにはっきりと地味子と呼ばれたその人は、貴仁に言った
凄いな、女の子なのに…僕とは大違いだ




「なんで名前…」
「マナー護らない奴は人間じゃないから」
「はぁっ!?」
「ククク…つまり、名前すら呼ばれないんだと」
「てんめぇ、今なんつった!? やっと喋ったと思えばそれかよ!」




貴仁が食って掛かるのは、同じPPPメンバーの楢岡悠真だった
珍しく声に出して言葉を口にするのを、貴仁が聞くのは久しぶりな気がした




「何だ?」
「喧嘩か?」
「飯時に喧嘩ってもうやめてほしいよな」




食堂内であちらこちらから声が聞こえてくる
次第に注目を浴びてきた事から、貴仁は小さく舌打ちをした




「おい貴仁」
「あぁ? なんだ流星か…」
「苛めとかだっせぇからやめろって」




おや、珍しい物を見たと地味子は流星を見る

ほんの少し前までは、彼も虐める側の人間だった
それが今や、虐められる方を擁護する立場にある
彼の隣に居る瑞希の顔が、ほんの少しだけ嬉しそうに笑って見えたのは気のせいだろうか




「くくく…まさかてめぇからそんな言葉が出るなんてな」
「だせぇんだよ、お前」
「俺に言ってんのか? イケてるっての!!」
「じゃあグラサン外せよ」
「お前は何でグラサンむしろうとするんだよ!? マジでやめろって! 殴るぞ!?」




勇敢すぎる女子の行動に、敏斗は呆気に取られていた




「…か、彼女は…恐くないのかな、あの貴仁相手に――」
「うーん…地味子ちゃんだから出来る事だと思う」
「え?」

「名無しさん、めっちゃくちゃ強いんだぜ! それにとっても優しいんだ! 僕、彼女にハンカチ借りたことあるよ!」




そのハンカチも、未だに自分が持っていることを森永は言わなかった
単に返すタイミングを失っていると言った方が正しいのだが、彼女の方もそれを忘れているのでお互い様だったりする

あれから何カ月だっけ? え、もうすぐ半年は経つよね?

まるで自分の事のように言う森永は、どうしてこうも威張っているのだろうか…




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