HERO GIRL

□幼馴染と過去とヒーローマン
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「ひぃ…はぁ…はぁっ…」
「頑張れ少年! もう少しだ!」




隣でバスコが声を掛けてくれながら、今日もジョギングをしていた
まだ長い時間も距離も走れないけれど、毎朝こうして付き合ってくれている
正直、ちょっと走っただけでも息切れだ
この身体の普段の運動不足がよく解る




「ご苦労だった」
「はぁっ…はぁっ…」
「蛍ちゃん、はい」
「あ、ありが、とう…地味子ちゃ…」




朝のジョギングには、地味子も参加していた
蛍介も一緒に走ると聞いた時は少し驚いたけれど――

蛍介は、本当に毎朝筋トレしてたんだ…とジャージ姿の地味子を見てそう思った
明け方のコンビニで姿を見たりはしていたけれど…




「地味子ちゃん、いつもこんな事やってるの…?」
「うん。あとは腹筋、腕立て、スクワット。組み手もやるよ」
「えぇぇええ…」
「あぁ、でも蛍ちゃんにいきなりそれは過酷だろうから、まずは徐々に走る距離を伸ばしていこうね」
「う、うん…っ」




正直10分ぐらいが限界だった
ちょっと運動して休憩が続いている
バスコは自分の休憩の合間に、鉄棒で懸垂をしていた
あの人凄いよ、全然疲れてない




「蛍ちゃんと組み手が楽しみだなぁ」
「えっ。ぼ、僕じゃ負けるよ…!」
「あははっ。でも、変わりたいんでしょ」
「…うん」




今の自分が変わりたいと本気で考えたのは、実家へ戻った時だった
虐められていた頃の自分を知る人達
そして、結局はもう一つの身体に頼ってしまう自分
虐められてた頃と何一つ変わっていない自分が、情けないと思った
何の為に母ちゃんに無理を言って転校したんだ?

…僕は、根本的に何も変わってなかった


自棄酒ならぬ、自棄炭酸をぐびぐびと飲む
スカッとした爽快感が身体を通り抜けた
疲れた体には甘いものが最適だね

地味子も同じように飲んでいた
ただ、飲むのは蛍介と違ってミネラルウォーターだが




「三日も続けて頑張ってるんだもん。これからも頑張ろう!」
「う、うん!」
「おう。此処にいたのか」




程なくして翔瑠が到着した
相変わらず『恋人アプリ』で場所を確認しているらしい




「翔瑠。おはようー」
「バスコは?」
「あそこで懸垂してる」
「おぉ、翔瑠。良く此処が解ったな!」




嬉しそうに晃司が言った
本人はテレパシーと思っているようだけど、未だに知らないみたいだ




「地味子ちゃん? な、何してるの?」
「んー。ブリッジ! 次の新技に向けて練習を、ね」
「そ、そうなんだ…(新技って何だろう)」




――こいつ、まだ居たのか。

翔瑠は最近増えたもう一人の人物に視線を向けた
コンビニで働く夜のバイトだった
名前は――あの長谷川蛍介と同姓同名
しかしイケメンに比べてこっちはなんともまぁ…形容しがたい




「少年、水あるか」
「た、炭酸ならあります!」
「それは捨てろ」
「晃司、私の飲んでいいよー」
「あぁ」




いとも簡単に自分の飲んでいたボトルを勧める彼女に、蛍介は驚いていた
バスコもバスコだけど――間接キスって思うのは僕だけかな?

少しだけ落ち着いたかに見えた心臓が、またドクドクと波打っていた
何だかこっちが紅くなって馬鹿みたいだと思う




「新技って…何するつもりだ?」
「ジャーマンスープレックス。昨日、プロレスのテレビを見たから」
「…いや、お前には難しくね?」
「んー。蛍ちゃん、ちょっとやられてくれない?」
「えっ!?」
「やめとけ。潰されたらどうする」




地味子と蛍介の体格差を考えたら、抱えて後ろに反らすまでにその重みで逆にやられてしまうかも…
その為に練習をしているのだけどね?

やっぱり違う技の方がいいかなぁ




「地味子、組み手をしよう」
「よしきた」
「えっ。ホントに組み手してるの、二人で!?」
「あいつらはいつもそうだよ…」




翔瑠はもう見慣れた光景だが、蛍介はとても驚いていた

だって、バスコと地味子ちゃんだよ?
男女の差ってものがありすぎるよ!

あ、でもバスコは殆ど防戦一方だ
主に地味子ちゃんが攻撃を仕掛けているように見える――


っていうか――




「こ、拳が早すぎて見えない…」
「ゲームみたいなやつだろ」
「あはは…それを相手するバスコ…さんも凄いですね」




こっちの蛍介は、あくまでコンビニのバイトだからとバスコや翔瑠に対しては、とってつけたようだが、敬語を使っている
気を抜けばイケメン蛍介のように喋ってしまうので、本人も気を付けていた




「凄いなぁ…」
「お前、何で変わりたいって思ったんだ?」
「僕は――虐められていた自分を、変えたかったから…です」
「…お前もそうなのか」




呟いた言葉に、蛍介は首を傾げた




「バスコさん…地味子ちゃんも凄いですよね。二人ともあんなに強くて、格好良くて――地味子ちゃんは女の子なのに、どうしてあんなに強くなりたいんだろう」





目の前では白熱した組み手が繰り広げられている

――組手というか、もうあれはただの殴り合いだ
最初は防戦一方だったバスコも、次第に手が出てきている

何あれ、もうただの格闘試合にしか見えない




「…あいつがそう思ったのは、俺達の所為だ」
「え。それってどういう――」




昔から、そうだった


丁度同じ、


この場所、


この公園で――



三人はいつも一緒に遊んでいた





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