HERO GIRL

□私と転校生とモコ
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冬休みが近づいた頃、担任がクラスに告げた



「今日は転校生を紹介するぞー」
「転校生!」
「男?女?」
「女子だ」

「「うおおおおおっ!!!」」




その言葉にクラスの男子が雄叫びを上げる
正直煩かった、特に前を座る道也、一徹、喜介の三人が
そして、こんな状況下でも眠っていられる地味子ちゃんが、相変わらず凄いと思う




「先生! 早く早く!」
「おー…練馬、入れ」



――教室に入ってきたのは、眼鏡を掛けた女の子だった




「初めまして。練馬明里です」




その見た目に、スタイルに、誰もが注目する
あれだけ騒いでいた三人が、突然水を打ったように静かになった




「おーい? どうしたお前ら」

「なにあれ」
「くすくす…」



クラス中が嘲笑に満ちていた
その皮肉さを込めた笑いに、僕は嫌と言うほど経験がある

蔑んだ眼が彼女を捉えていることも…




「…ったく。お前ら仲良くしろよー」
「…」



彼女――明里ちゃんは少しだけ俯いた
眼鏡に隠されたその瞳が、とても哀しそうに見えた

二学期も終わりそうな中途半端な時期に転校生なんて、自分としてはとても親近感がわく




「やべぇだろあいつ…なぁ流星?」
「前向け。馬鹿」




後ろを振り返った道也だが、流星はどうでもいいようにあしらっていた
見た目だけでこんなにも酷く思われるなんて――自分の元の身体を思い出して、眉を顰める



「お? 蛍介どうしたよ」
「な、なんでもないよ…」



この道也だって、以前は僕の事を知らないとはいえ、虐めていたんだから――



「練馬の席は――あそこで寝ている女子の隣だ」
「は、はい」




明里ちゃんが此方に歩いてくる
ちょっと歩いただけでも、くすくすと嘲笑が聞こえた

丁度通路を挟んで隣に寝ている彼女がいた
転校生のちょっとした騒動でも、やはり彼女は彼女だった



「おーい、名無し。起きろー」




先生の呆れた様な声が飛ぶけれど、地味子ちゃんは依然として眠り続けている
朝はあんなに元気に筋トレしていたのに――疲れてるんだろうか



「…名無し?」
「あぁ、うん。その子…名無し地味子さんって言うんだ」
「名無し、地味子…」




少しだけ驚いたように明里ちゃんはそう言った






――転校初日は、相変わらずの歓迎ムードだった

いや、歓迎されているかどうかも定かじゃない
少なくとも、好印象の眼で見られている訳ではないことは確かだ…


大丈夫、これもいつもの事
あとは卒業まで目立たず、ひっそりと過ごせればそれでいい


…この学校に転校させた父の思惑は解らないけれど、クラスにはあの男がいる
何の目的で監視しているのか、未だに教えてくれない彼には、本当に困ったものだった



クラスには中心的存在と言うものがある
その人、もしくは人達でクラスを引っ張る、ムードメーカー的な存在だ


流石ファッション学科と言うだけあって、男子も女子もイケメンと美人ぞろい




「(男子の中心グループは、彼らかしら…)」

「流星、美怜ちゃんがまたケーキ食べに行かないかって…」
「あぁ? またかよ女ってホントケーキ好きだよな」
「四宮はケーキ好き?」
「(こくこく)」
「ホント? じゃあ一緒に行こうよ」



もしくは――



「転校生って言うから期待したのになー」
「ホントだぜ…道也、何してんの?」
「しーっ! 地味子ちゃんの寝顔のシャッターチャンスなんだぜ!」
「…やめとけよ。また叩き割られるぞ」




この三人組。

そして女子は――




「地味子ってば朝から起きないけど…死んでないよね?」
「多分ね…」
「ねぇ瑞希。流星とケーキ食べに行ったってホント? 次はあたしと行ってくれるように頼んでくれない?」
「自分で頼めばいいじゃん」




きっと、あの三人が女子の中心グループだ
どの女の子も綺麗で可愛い

でも、今の私じゃこのグループには入れない

私が入るのは――目立たない子たちの群れ



「…我慢よ。明里」



自分に言い聞かせる様に呟いたところで――彼女がもぞっと動くのが解った





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