HERO GIRL

□地味子ちゃんと復活といいね
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「ねぇ、あれ見た?」
「見た見た!」
「道也の奴、最近見ないと思ったらとんでもない事やらかしてんな!」




ざわざわと人の声が行き交っている
いつもよりもそれは酷く、とても大きく聞こえた

話題は皆、例の動画について――道也の事だった




「もうっ! 道也ったら馬鹿じゃないの!?」
「み、美怜さん。落ち着いて…?」
「これが落ち着いていられますかっての! 何よあの動画! 何で…何であそこに地味子が居るのよ!?」




机が真っ二つに割れんばかりに、美怜ちゃんが叫んでいる
それを明里ちゃんが諫めようとしているけれど、多分無理だろうと思った
彼女の怒りは、僕にも痛いほどよく解るからだ




「あの子、家で大人しく寝てるんじゃなかったのぉおお!」
「…あ、さっき病院行ってくるって、メッセが来ていたわ」
「嘘!? 明里に来て、なんで私には来てないのっ!?」
「美怜さん、先生に没収されたよね…」
「うっ…そうだった。先生にあとで返してもらわなきゃ!」




不覚にも、担任の手によってスマホが没収されてしまった
だって地味子から連絡がやっと来たんだよ!?
だからすぐに返事を打ったんだ、当然じゃない!




「蛍介。道也の問題に、何で地味子が巻き込まれてるの?」
「えぇっと…僕に聞かれても」
「あの坂木って人、前に此処に来てたわよね?」




瑞希ちゃんの問いかけに、僕は頷く
そう、あれは地味子ちゃんが早退した日の事だった




「うん、バスコ達と一緒にね」
「じゃあその人が逃げだしたら、道也や…地味子はどうなるのかしら。地味子の事だから、道也でも放っておかないと思うんだけど」




それは僕もそう思う
理由はどうあれ道也は今、神野と言う人たちに追われている

詳しい事情を知らないとしても、助けを求める声に、彼女が耳を貸さない訳がない
大丈夫かな、地味子ちゃん…




「で、電話! 誰か地味子に連絡してよ!」
「それが――電源が切られてるのか、繋がらないの」
「そ、そんなぁ…」
「ま、まだ地味子ちゃんが危ないと決まったわけじゃ…」
「蛍介ってばそんな悠長な!」




えぇー、何で僕は美怜ちゃんに怒られたんだろう?
地味子ちゃんのことだから、大丈夫だと思うんだけど…




「あああああ!!?」
「どうした瑞希!?」




突然大きな声を出した瑞希ちゃんに、今まで黙っていた流星が反応する
瑞希ちゃんはスマホを見つめたまま、顔面蒼白で震えていた




「居た…地味子、居た!!」
「えっ!?」
「何処!?」
「こ、…これ! この動画!!」




彼女が示す指先は、あの神野と言う人の動画だった
また新しい物がアップされたらしい


移動中の車内の映像だった
どうやらタクシーに乗っているらしい

しかも、逃亡していた坂木と一緒にだ
其処には神野の仲間であるスキンヘッドの男や七三分けの男もいた


だけど――肝心の地味子ちゃんの姿は何処にもない




「何だよ瑞希。地味子の奴、何処にも――」
「此処! これ見てよ!」
「あぁ? なんだってんだ」




スマホの小さな画面では解りにくいが、撮影者は神野らしい




『今度こそ坂木を逃がさないように見張っています』

『逃げたらどうなるか解ってるよな?』
『…』
『お前だけじゃない。これの持ち主だってどうなることやら』




生気のない坂木の目線が、ゆっくりとカメラへと向けられる
そして小さく首を傾げた――まるで解らないと言う風に




『今頃、加藤道也と一緒に凍え死んでないといいな。お前の女』
『…!』
『おっと。運転手さん、運転には気を付けてくださいよ』





その時、映像が上下に揺れて映ったのは――





「このスマホ、地味子のなんだよ!」
「何でそんな事が…」
「解るの! だってこのストラップは『ヒーローマン』じゃん! こんなの子供みたいなのを付けてるの、地味子しかいないよ!」
「…そう言えば、私も見たことがあるわ」




明里ちゃんも?
それならきっと間違いないよ、僕も見たことがあるから――




「地味子のスマホで撮影してるの? 最低!」
「しかも道也と一緒に捕まってるだって?」
「そんな…!!」




チャイムが鳴り響くと同時に動いたのは、流星だった




「瑞希。悪いけど…今日は一緒に帰ってやれねぇ」
「う、うん」
「りゅ、流星! 道也を探しに行くの?」
「…」
「此処は警察に通報したほうが…」
「現状で警察なんざあてにならねぇよ。…あいつの親父が出て来たら面倒だろーが」
「あ…」




そう言えば、地味子ちゃんのお父さんって刑事さんだっけ…
でも、自分の娘の事を心配して、駆けつけてくれるかも――




「最悪、その神野って人…半殺しじゃ済まないかも」
「ゆ、唯ちゃん??」




唯ちゃんがガタガタと震えているのを見て、あのコンビニでの一件を思い出した
地味子ちゃんのことになると本当に怖いんだよね、あのお父さん




「俺は神野に個人的な借りがあるだけだ。子分を助けるのはそのついで」
「借りって――流星って、知り合いなの?」
「まあ、な」
「そうなの? それなら地味子も助けてよ! 友達でしょ!」
「…あいつだったら心配いらねぇだろ。強いし」
「馬鹿! 地味子は! 女の子なの! あんたとは違うの! 馬鹿流星!!」




流星、瑞希ちゃんに馬鹿を連呼されてちょっと傷付いてる

でも――そうだ
僕は何を馬鹿な事を考えたんだ?

地味子ちゃんは女の子なんだ
クレイジーおじさんや、デンジャラス兄さんで何を見てきた?

幾ら彼女が強いと言っても、いつだって傷付いていたじゃないか…

泣きそうな顔で、それでも笑っていたじゃないか――




「…! そうだっ。お髭の人に――って、あぁっ、ないんだった! もう!!! 先生の馬鹿!!」




…バスコは、地味子ちゃんの事知ってるのかな






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