HERO GIRL

□彼と彼女と強さの理由
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今日は家が少しだけ綺麗になっている気がする
掃除はまめにしているけれど、それ以上にピカピカになっている
よく見ると洗い物も終わっていた
私がする前に誰かがやったらしい――




「あらあら、不思議ね。誰がやったのかしら」
「ふふふ。お父さん頑張ったよ!」




背後には腰に手を当ててニヤニヤと笑う夫が居た
どうやら褒めて欲しくて仕方がない様子だ




「ついでにゴミも捨てておいてくださいな」
「すでに終えてあるのさ!」
「まぁまぁ…素敵ですね」
「ただいまー…お父さんどうしたの? 掃除なんて珍しい」




いつもの様に朝の筋トレから娘が帰って来た
朝から掃除をしている父に、少しだけ引いている




「たまにはお母さんのお手伝いをしなきゃと思ってね」
「お家が綺麗になって助かります」
「ふふん。お母さんに褒められたらもっと頑張っちゃおうかなー」
「それが終わったら、お風呂とトイレ掃除もお願いしますね」
「任せて!」




リビングの掃除をテキパキとこなす彼は、とても楽しそうだ
この分だと、家中の至る所を綺麗にしてくれる事でしょう
やる気があれば、主婦の私よりも丁寧だった
それを見て私はニコニコと微笑む




「…おだてれば何でもしてくれるんだね」
「手綱を握るとはこう言う事よ」
「へぇぇ…」
「あの、娘に変な事を憶えさせないようにね? お母さんみたいに黒く染まっちゃ…」
「あらあら、こんな所に大きなゴミがまだ残ってたわ。これも捨てておかないと」
「お母さん? それは俺だよー。あれ、俺って捨てられるの?」




涙ぐむ父を余所に、娘は学校に行く準備を始めた
制服に着替えて朝食もそこそこに席を立つ
いつもより少し早い時間に家を出るようだ




「あら。もう行くの?」
「うん。ちょっと蛍ちゃんの家に寄ってから行く」
「こんな朝早くから? ご迷惑じゃないの」
「んー。ちょっと気になる事があるからさ」




何が気になるのか、娘は答えてはくれなかった
こういう時は、何か厄介な事が待っている…と、長年親をしている自分だから解る




「ついでに蛍介と学校に行こうと思って」
「あら…そうなの?」
「蛍介ってあのイケメンの彼!? 何、あいつが気になるの??」
「うん」
「ええぇぇぇ…晃司くんや翔瑠君だけじゃなかったんだ」




ついでに言えば、蛍介君だけじゃないのよあなた
娘の部屋の写真にも、流星君って言う男の子がいるの

でもそれを言ったら――今以上にショックを受けるかしら




「そっか。そうだよね。お友達沢山出来たんだもんね」
「お父さん、今日は休みなの?」
「はぁ…ん? いや仕事だけど」
「解った。行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」




いつも様に家を出ていく娘を見送った後で夫を見ると、何やら不思議そうに首を傾げていた




「何で聞いたのかな?」
「さあ…それよりあなた、仕事なら着替えないといけませんね」
「まだトイレ掃除が終わってないよ」
「十分綺麗なので大丈夫です」
「あ、そうなの? じゃあいいか…」




それにこれ以上やると、私の仕事がなくなってしまします
手伝ってくれるのは嬉しいけれど、いつまでもスウェットを着ないの
スーツならいつもの所にありますし、Yシャツもアイロンを掛けて置いてありますよ
着替えた後は、洗面所に籠って最後の仕上げ

貴方は貴方にしか出来ない仕事をして下さいな
市民を守るのが、貴方の仕事でしょう?

程なくして、洗面所から出てきたのは――『仕事モード』の夫

相変わらず、彼は――




「…」
「ん。何? もしかして見惚れたとか?」
「もう。毎日見ているでしょう? 気を付けて行ってらっしゃい」
「奥さんが素直じゃない…行ってきます」




せっかくキリッとしているのだから、その姿で落ち込まないで欲しい
帰ったら美味しいご飯を用意してあげるから、頑張ってね

家族は全員で払い、家には私が一人


そして、ここから私の時間が始まる――




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