HERO GIRL

□サイコパスレディとヒーローガール
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ヒーローマンを呼んだ瞬間、女が突進してきた
その勢いでスマホが手から離れて、何処かに飛んでいった




「このっ!!」
「ぐふっ!!」




スマホは気になったけれど、今はこの女をどうにかするのが先決だ
女の手にはまだスタンガンがあるし、取っ組み合いになれば終わりだろう




「ダーリンは渡さないわ。絶対に…!」
「こ、このストーカー女! 蛍介が可哀想!」




ドタバタと逃げ回り、時に反撃をするものの、どうにもスタンガンの存在に畏怖しているらしい
普段の半分も威力が出ていないと、自分の蹴りを痛感していた
さっきの痺れも残っているし、次にそれを受けたら終わりだ
何よりその痛みを何処かで恐れているようだ




「可哀想? ダーリンは幸せになるのよ。私と一緒にねぇっ!!」
「うわっ!」



ニタリと女が笑みを浮かべ、容赦なくスタンガンを繰り出してくるのを、間一髪で避けていた
動きが早いのは日々の鍛錬の賜物だけれど、いつまでも避けてばかりでは勝てない

反撃に転じるチャンスを窺うけれど、床に散らばった蛍介の写真で足を滑らせたり、蝋燭のみの乏しい灯りが視界を悪い所為でなかなか好機がない

おまけに陽は落ちて、すっかり暗くなっている
いろいろと悪条件が揃って、戦いにくいのが現状だった


――どうしたものかな




「…地味子ちゃん!!!」




その時、蛍介が目を覚ました
あれだけドタバタしていたら嫌でも起きるよね
でもよかった、気が付いて




「ダーリン! 起きたのねっ」
「う、うわぁっ!?」




今まで退治していた私を無視して、女は蛍介の顔に近づいた
蛍介の顔は恐怖に歪められている
縛られているから身動きも取れない




「け、蛍介から離れなさい!!」
「あー? あんたまだ居たの」
「さっきからずっと居ましたけど!?」
「私とダーリンの愛の巣に入り込むなんて…お仕置きが必要ね」




バチバチとスタンガンが火花を散らす
蛍介の顔がまたも歪められていた




「地味子ちゃん逃げて! 助けを呼ぶんだ!」
「蛍介を置いて逃げられるわけないでしょ。それに助けは呼んだから大丈夫」
「えっ」
「ど、どう言う事よ! そんな暇なかったわ!」




女は激昂する
一応目の前で助けを呼んだんだけどなぁ、ヒ―ローマンに




「もしかして――ヒーローマン?」
「あれ。蛍介。なんで知ってるの?」
「えっと…」




助けを呼ぶにしても、蛍介を残していく訳にはいかない
今、彼を護れるのは私だけだ

私がやらなきゃ――!



「大丈夫。ヒーローマンは直ぐに来てくれる」
「ヒーローマン? 何それ。あんたさっきから何言ってんの?」
「言っても解らないでしょうから、気にしないでいいですよ」
「は? あんた…この状況解ってるの? 一人で何が出来るって言うの」



誰かを護る戦いは久しぶりだった



「貴女こそ解ってますか? これから私に倒されるんですよ?」
「…あんたむかつく!」




蛍介から私に向き直った彼女は、ますます激昂していた
威嚇する様にスタンガンが激しい音を鳴らし、火花を散らす

注意が私に向いてくれるなら有り難い事だ
そして時間を稼げればなおいい

この緊張感――あの時と一緒だ

デンジャラス兄さんの時と
このストーカー女め…友達を傷つけるなんて、絶対に私は許さない




「あんたなんかにダーリンは渡さないわ!」
「いいえ。返してもらいます」
「あ、あんたなんか…死ねばいいのよっ!」




注意すべきはスタンガンだ
あれを手放さない限り、あの女を捕まえることが出来ない




「ダーリンは私の物なの! どいつもこいつもすり寄る女はビッチばっか! 私だけの物なのに!」
「…蛍介。随分と好かれてるね」
「地味子ちゃん…!」



やっぱり蛍介はモテるんだ
ちょっと今回ばかりは度が過ぎているけれどね

モデルしたりSNSでいいね沢山貰ったり、有名芸能事務所に所属していたりしたから、それなりに顔と名前が知れ渡っているんだろうな
私も『地味子ちゃん』だったころは本当に苦労したから、よく解るよ




「あんたもダーリンを狙ってるの?! 好きなの?!」
「うーん。蛍介が好きって事は間違いないけどなぁ」
「えっ」
「や、やっぱりあんたも…!!」
「後は蛍ちゃんとか翔瑠とか、晃司も…」
「男をとっかえひっかえってことね…!!」




あれ、どうしてそんなことになったんだろう?
この女も蛍介も驚いているし…




「あ、あはは…そう、だよね…」
「蛍介?」
「…この子はそう言う子だった」
「???」




蛍介が何かを言っていたけれど、よく解らないや
お喋りをしている余裕があるのは有り難い
少しずつだけど、身体も元に戻ってきている




「とんだビッチね! 自分の顔がいいからって…!」

「いや、別にそんな可愛くないし、綺麗でもないし、美人じゃないし。それなら美怜ちゃんとか瑞希ちゃんとか唯ちゃんとか、あと明里さんとか――」



自分の周りに居る綺麗どころを上げていくたびに、何だか落ち込んでしまいそうだ
所詮平凡な顔ですよ。最近はメイクすら満足にしていないし
お母さんには怒られるし…やだやだ




「…はぁ。どうやったら変われるのかな。整形でもした方がいい? 私も一度はモテモテになりたいんだけどなぁ」
「地味子ちゃん??」
「あぁ、ごめん。現実逃避してたよ」
「こ、こんな状況なのに、あんたは…! 随分と余裕じゃないのっ!」




――バチバチバチ!!




「このビッチがあぁあああ!!!」
「地味子ちゃん!!」

「スタンガンの動きって接近されなければいいんだよね。要するに間合いに入られなきゃいいの」




空間が広くて逃げる場所があればの話だけどね
まあ、此処じゃ色々と悪条件だから、あと何回避けられるか解らないけどさ




「な、なんで当たらないの…!」
「…みかわしきゃくのお蔭?」
「ふ、ふざけた事…言ってんじゃないわよ…!」




長時間の追いかけっこで、女の息も上がりつつあるようだ
このままバテてくれたら、反撃に出るチャンスも上がるのにな




「渡さない。渡さない。渡さない…! あんたを殺してでもダーリンを奪う!!」
「わー。どうしよう。身の危険を感じるよ」
「今更!?」




女の様子が段々逸脱してきた
元々変ではあったけれど、更に拍車がかかっているようだ

蛍介が好きならもっと相手を思いやる気持ちがあってもいいと思うんだけど
自分はやっていることに、罪悪感がないのかな
行動には責任を持ってほしいよね
誘拐と傷害といろいろと罪になるんじゃない?

…サイコパスって言うんだっけ、こういうの


じゃあ、サイコパスレディって呼ぼうか




「蛍介。もう少し待っててね」




私が、必ず助けるから――




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