HERO GIRL

□私と休日とあいつ再び
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「地味子、そろそろ髪が伸びてきたんじゃない?」



とある休日に、お母さんからそんな事を言われた
去年の今頃に切ってから、整えるくらいに美容院に行ったきりである
前髪もサイドも肩口まで程よく伸びて来た



「ホントだ。ハサミハサミ…」
「自分で切ろうとするのやめなさい」
「えー」



自分でやった方が直ぐなのにと口を尖らせるものの、ただのぱっつんになりそうで、何の面白みもない気がした




「美容院で切って貰いなさい。ついでにお買い物でもして来たら?」
「ううーん。そうするかなぁ…でも混むんだよね、いつものショッピングモール」




休日には大勢の人で賑わうショッピングモール
家族連れやカップルが多く、お店も沢山あってとても一日じゃ回れないくらいだ
近年ますますモール内は発展し、都市開発も進んでいるらしい
最近はなかなか行く機会がなかったけれど、新しいお店も続々と出店しているそうだ
新しいゲームセンターって言うのも気になるし、ちょっと見に行くのもありかもなぁ




「じゃあ行ってくるね」
「気をつけてね…またジャージで行くのね」
「うん!」




お母さんは、私がジャージで出歩くことにもう何も言わなくなった
これが楽なんだもん、ホントに



家からそう遠くない距離にあるショッピングモールは、地元の駅を玄関口として方々に、活気と賑わいをを見せている
お子様からご年配の方まで楽しめる様にと、商業施設にとても力が入っているらしい
休日ともなればやはり人が多く、既に私は帰りたい気分だった




「に、逃げちゃ駄目だ。私は美容院に来たんだから!」




数ある美容院の中で選んだのは、いつもご贔屓にさせてもらっているところだ
常連という訳ではないが、年に数回行くだけなので、やはりご贔屓と言うには申し訳ない気がする
紅輝から貰った美容院の優待券が、使っても使っても無くならないので、少々困りものだ

ところで今日はどんな髪型にして貰おうかな?




「いらっしゃいませ。まぁっ! お嬢様!」




…此処の人達は、どうしていつも私の事を『お嬢様』って言うんだろう
お客さんを大切にするコンセプトなのかな
じゃあ男性客が来たら『お坊ちゃま』とか?
どうでもいいか…


着ていたジャージと鞄を丁寧にお預かりされ、ニコニコと笑う女店員さんと鏡越しに会話をする



「本日はどのようになさいますか?」

「えーっと…シャンプーとカットとブロー?だったかな。お母さんが言ってたの。あ、これ使って下さい」




いつもお母さんが美容院に行く時は、こう言うそうだ
相変わらず、私はお母さんが居ないと駄目なんだよね
まあ、結局優待券を使うのだからやることは一緒なんだけど




「かしこまりました!『プレミアム・デラックス・エディション』で承りますねっ!」

「…何の呪文ですか、それ」
「こちら、特別ご優待券をお持ちですので、ヘアマッサージにエステもさせて頂きますわ!」
「あとは、ネイルケアも致しますねっ!」
「はぁ、お願いします…」




何だかよく解らないが、紅輝はとんでもない物くれたらしい
私的には20分くらいで終わってくれればいいのに、あれよあれよと流されて一時間は経過しようとしている

おかしいな、私は髪を切りに来ただけなのに…
此処は美容院やエステもやってるんだ、凄いね
って言うか同じような事を私、去年もやった気がする
あの時よりもこれ、パワーアップしてるよね絶対…


…あ、でもヘッドスパ気持ちいいなぁ
思わず眠ってしまいそうだった




「――お嬢様。終わりましたよ」




うとうとし始めた頃、女店員さんの声ではっとする
いけない、本当に寝そうになってた
涎とか出てないかな、恥ずかしいんだけど…!



「あ、ありがとうございますっ」
「ふふ、随分お疲れみたいですね」
「勉強とかバイトとか、あとは悪者退治?」
「まぁ。ふふっ」




柔らかな笑みを浮かべる彼女は、奥から預かってくれてたジャージと鞄を持って来てくれた
それから仰々しくも従業員一同が、店の入り口で見送ってくれた
ちょっぴり恥ずかしいよ、皆が見てるもん



「「ありがとうございました!」」

「お坊ちゃまにもどうぞ、よろしくお伝え下さいね」
「あ、はい。紅輝にもありがとうって言わなきゃ…」

「ほら、やっぱり彼女なのよー」
「そうみたいね。羨ましいわっ」




…女店員さんが何を話しているのかは解らないけれど、適当に頭を下げてはそそくさと離れることにする
凄いのは紅輝であって、私ではないんだから

美容院に行った事で、髪の毛が綺麗なキューティクルになり、ちょっと巻いてもらった
毛先も綺麗に整えられているし、指先も同じだった
エステの効果は解らないけど、肌がもちもちしているような気がする
マッサージ効果で肩の力が抜けたようだった

うん、身体が軽くなったみたいだ





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