HERO GIRL

□私とカフェとくまさん
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「やーん! どれも美味しそうで選べなーい!」
「どれでも好きなのを好きなだけ選ぶといいさっ」
「えー。そうしたらまた太っちゃうし―」
「HAHAHA! どんな君でも魅力的だよっ」

「…ご注文はお決まりでしょうか?」



マニュアル通りの接客をしつつ、目の前のバカッ…お客様に伺う

女の方は太ることを危惧しておきながら、あれもこれも選んでいた
此方としては売り上げが増えて万々歳なのだが――全部食うのか、これ

1,2、3… 8個もあるぞ?



「あーんして食べさせてあげるね」
「HAHAHA! 嬉しいな! 僕も君に食べて欲しいよ」
「きゃー!」

「…ごゆっくりどうぞー」



遊園地のあれは見間違いじゃなかった

…この二人、あの時のバカップルだ!!




――今日もバイトに励むカフェの店内は、老若男女問わず大盛況だった

と言うのも、数日前から行われているイベントによる効果によるおかげである
いつも以上に多い客層に忙しなく動き回りながら、時折フロアを見渡してみた

フロアを歩く店員には皆、頭にウサ耳やネコミミなど、アニマルをモチーフにした頭飾りをつけている

イベントはカフェの店長が発案したものであり、今回の『アニマルフェア』以外にも『カップルフェア』やシーズンに合わせた内容で、定期的に開催されている

その為にカフェの人気は高く、普段からそれなりに忙しいバイトにも拘らず、イベントごとに関してはかなりのストレスと重労働となる

それがイベント期間中ずっとな物だから、それなりに疲労や苛立ち、不満や愚痴もある訳で――…




「…何で男までこんなのつけなきゃいけないんだ?」




頭についているくま耳をちょいと触る
それなりに良い素材を使っているのか、モフモフ、ふわふわ、とにかく手触りがいい
こう言う細かい事にも店長は妥協をしない

たまに子連れでやって来るお客からは当然、頭についているこれを弄られる
可愛いだの似合ってるねだの、そんな事俺に言われてもただただ恥ずかしいだけだ

ついでに言うと、カフェとアニマルの関係性は何もない
どういう理由で店長がこれを考案し、しかも通ったの解らないが…
女ならたまだしも、男がこれをつけるにはちょっと…いやかなり抵抗があった


遊園地じゃ皆が付けていたけれど、ここじゃ話が違う



「あー、恥ずっ…」
「翔瑠さんすみません。これは何番テーブルでしたか?」



それでもカフェは大盛況で繁盛しているから、それもおかしいと思う
…それとも、俺の方がおかしいのか?




「一番に持って行ってくれ」
「あ。はーい!」




あんな風に女がつける分には可愛いけど、男からしたら拷問だ
外では客引きに、着ぐるみまで用意して宣伝している
新しく入ったバイトも可哀想だな…
時々拍手が聞こえるんだが、あれはなんだ?


それにしてもこんなところ、万が一知り合いにでも見られたら――




「お次の方どうぞー」
「ぷっ」



…いきなり笑われた



「翔瑠、可愛いねっ」
「…いらっしゃいませ」



うっ、こいつ。確か流星の女だ…!

って事は――



「ぶはっ。なかなか似合ってるぜ?」
「流星…!」



やっぱり居たか、この野郎!
お前も笑ってんじゃねーよ!



「見んじゃねぇよ、冷やかしなら帰れ」
「おい、俺達は客だぜ?」
「そうか。お出口はあちらになります」
「態度の悪い従業員だな。クレームつけるぞっ」
「やってみろ!」



売り言葉に買い言葉だった

恥ずかしい姿を見られたせいか、顔が赤いと自分でも解る
何でこんな時に限ってカウンターが俺しかいないんだ

…あ、もう一人のバイトは今、外に居るんだったな



「もーっ。今日はケーキを食べに来たんでしょ。喧嘩しないのっ」
「し、してねぇよ。これはただの挨拶だって!」
「…犬」
「ぁあっ!?」




飼い主に尻尾振って従う犬にしか見えないんだが?
瑞希が上手い具合に手綱を握ってるし

一応二人は客として来ているんだ
まだ後ろに人が並んでいるし、俺もしっかり仕事をしないとな




「二人だけか?」
「蛍介達も誘ったんだけど、来れないみたい」



来なくてよかった
何度も言うが、こんな姿は知り合いには見られたくない



「えーっと、ケーキセットを二つ。コーヒーでいいよね?」
「おう」
「かしこまりました」



淡々とオーダーを通して、テキパキと作業に移る
こんなクソ忙しいのにカウンターが俺一人って、本当に酷いよな
外のバイトが入ってくれれば少しは楽なんだが、一応あれも仕事だし
何より店長命令だから、俺も含めて誰も逆らえない

フロアは可愛い格好の女店員が回っているお蔭で、一人で来ている男性客には、かなりお金を落としてもらってるし…

…あれ、ウチのカフェってそう言う店だっけ?




「地味子は来てないの? 翔瑠の姿を見たら面白…ううん、喜ぶと思うよ」
「絶対にあいつは笑うからな。呼んでねぇよ」
「じゃあバスコは?」
「チビ蛍介のとこでバイトだから来ない」
「勿体ない…」



地味子にもバスコにもこの姿は一度として見せていない
地味子はイベントがあることすら言ってないから知らないし、バスコは俺のバイトが忙しい事だけは知っているから、なるべくイベント期間中は来ないように言ってある

…物凄く泣きそうな顔をされたけど
ってか泣いてたな、あれは




「絶対に呼ぶなよ。おまけしてやるから」
「わぁっ。ありがとう!」
「おい、瑞希にガンつけんな。優しくしたら殺す」
「どっちだよ」




こいつははこいつで煩ぇな




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