HERO GIRL

□私と回想とお正月
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――春の桜が舞う季節から、少しだけ遡ろう

その日は昨夜から雪が降っていて、朝になると一面が銀世界――そんな寒い日だった



『暫く出稼ぎに行ってくる』



新年早々、そんなメッセを晃司から貰った

え、何処に?
何の?
いつまで?

そんな疑問を持ったけれど、返信をしたのは『頑張ってね』の一言だった



「うーん…もっとちゃんと文章を考えたらよかったかな」



既読にもならないそのメッセを見て、ベッドの上で思い悩むこと小一時間
というか、何も年明けに出稼ぎなんてしなくてもいいんじゃないか
要するにバイトでしょ?

それじゃ今年の初詣すら一緒に行けないじゃないか




――コンコン




「地味子。初詣に行って来たら?」
「初詣ぇー?」




扉を開けたのはお母さんだった
あけましておめでとう、今年もよろしく
そんな会話よりも先に、お母さんはそんな提案をしてきた

毎年初詣は近所の神社に行くのだが、お正月ともなれば人が多い
人が多いと言う事はそれなりにご利益がある訳で…

特にその神社は御利益満載で、いつ行っても人の姿があった
お守りの効果は他社よりも素晴らしく、お参りをすればその人に見合った願いが叶う
要するに有名な神社と言う事だ

それくらい神様がいい仕事をしている



「やだよ。三賀日は絶対に混むもん」

「お守りを奉納してきてね。ちゃんとお礼を言うのよ。それから新しいのを買ってきて頂戴」

「…はーい」




お母さんはもう私が行く事を前提に話を進めていた
古いお守りと新しいお守りのお金まで持たせてもらっては、これは行くしかない




「晃司君と翔瑠君を誘ったら?」
「んー。晃司は出稼ぎに行ってるから居ないの。翔瑠はどうかな…」
「地味子! お年玉だよー!」



悩んでいると、お父さんが煩くやって来た
新年早々このハイテンション…昨年と何ら変わってない

お年玉のポチ袋を一つ手渡されたが、私はそれに首を振った




「バイトしてるからいいや」
「いいからいいから」
「…足長おじさんにでも渡しておいてよ」
「足長おじさんからもあるよー?」



何であるんだ、足長おじさんの分
あの時以来、貰う言われなんてないのに



「返しといて」
「ええー」
「あらあら。じゃあ私が預かっておきます」



結果的に、そのお年玉はお母さんの手に渡った
でも私は知っている
結局のところ、お父さんの数少ない飲み代に回されるんだ


――PPPP!


その時、スマホが震えた
休みの日に着信だなんて、余りいい思い出はないのだけど…
画面に表示されたのは、見知った名前だった



「翔瑠?」

『おう。初詣行こうぜ』

「初詣…」

『バスコは出稼ぎでいねぇけど、良かったらと思って』

「うん、いいよ」

『解った。一時間後に迎えに行くから』



通話を終えると、お母さんがニコニコと笑って居るのに気づいた



「翔瑠君と初詣?」
「うん。一時間後に迎えに来るって」
「あらあら。じゃあ準備しないとね」
「準備って? 来るのは一時間後だし、まだのんびりしてても…」

「晴れ着着て行くでしょう?」



確かに私は持っているけれど、わざわざ着て行くほどでもない
ついでに言えば、いつも通りジャージか私服でいくつもりだった
ジャージが駄目でも、最悪私服ならお母さんも許してくれると思っていたけれど――




「…晴れ着?」
「せっかく初詣に行くんですもの」
「んー。いや、いいよ。面倒だし…」
「はいはい! お父さん見たい!」




娘の晴れ着姿なんて、誰得なんだろう
あ、お父さんだけか

あれって動き難いし、苦しいし、いい事ないんだよね
普段着ないから、余計に疎遠しがちだし…

あと、お父さんが見たいって連呼してて煩いんだけど




「年に一度だし、着て行ったら?」
「でも去年のでしょ。丈とか大丈夫?」
「大丈夫。お父さんが新調してくれていたみたいなの」
「マジか。何してるの」
「去年とそう変わってなかったから大丈夫だよっ! 変わったのは晴れ着の柄くらいかなっ!」



エヘンとふんぞり返ってお父さんはそう言うけれど、それはそれで悲しい
去年と全く成長が見られないのか、縦にも横にも



「お金の無駄遣い」
「お父さんのお金じゃなくて、足長おじさんのお金だから」
「…それはそれで微妙」



要するに、足長おじさんのお金が、全て私に流れ込んできているってことか
大方、家族旅行の温泉もその一部だったのだろう



「はぁ…解った。お母さん手伝ってー」



そこまでされては、私も応えない訳にはいかなかった




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