HERO GIRL

□私とアニキと再会
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空は快晴
ジリジリと照り付ける太陽に苦しめられながら、そっとカンカン帽を被り直す



「うーん。早く来過ぎたかなー」



スマホで時間を確認すると、約束の時間よりも早く到着していた
晃司と遊びに行くと約束をしたのは、昨日の事
結局何処に行くのか、未だに決まっていななかった

ちなみに、本日のコーディネートもお母さんプロデュース
可愛い服を選んでくれたのだが、ヒラヒラのプリーツスカートがそよ風だけで靡くのはいただけない

おまけにミュールまで履かされて、満足に動けないじゃないか
何これ拷問?




「晃司はまだ来ないだろうなぁ」



駅前の噴水で待ち合わせているのだが、先程確認した通り、約束の時間にはまだ早い
祝日で人通りの多い駅前広場は、多くの人で賑わっている
行き交う人をウォッチングするのも、また楽しいと眺めていたら、さっきは外国人に声を掛けられたっけ

思わず受け取ってしまったが、ハンバーガー屋さんのチラシだった
金髪で白人の彼は、道行く人にチラシを配っては、見事にお客さんを店に引き込んでいる
キャッチのプロと言う奴だろうか



「フォー、イカガデスカー。オイシイヨー」
「やだ、何?」
「いこいこっ」



三角傘を被った黒人の男が、同じようにチラシを配っても、その対応は真逆だ
それでもめげずに次のカップルにチラシを渡そうとしたが、今度は無視だった
人当たりのいい笑顔なのになぁ?

ちなみにその光景を私はずっと見ている



「フォーって何だろ」
「はぁああ…」



とうとう溜息を吐いてしまったその人を見ていたら、自然と足が動いていた



「お仕事大変ですね」
「ン?」
「チラシ、一枚下さい」
「モ、貰ッテクレルノカ!?」



手にどっさりと余るチラシには、ベトナム料理専門店を宣伝するメニューが書かれているようだ
フォーとは、ベトナムのソウルフードらしい



「アリガトウ! オ嬢サン、優シイ!」
「いやいや。チラシを受け取っただけでそんな…」
「プラタック、コレ全部配ラナキャ帰レナイ。社長ニ怒ラレル」
「プラタック?」
「私ノ名前ネ」
「あれ、何処かで聞いたような…」



その外国人――プラタックさんは『?』と首を傾げていた
何だろう、彼を見ているとゾクゾクする
もしかして夏風邪だろうか…あ、くしゃみ出た



「大丈夫? 寒イ? 温カイ物ドウ。ベトナムフォー。オイシイヨ」
「うーん。今は待ち合わせ中だし、熱い時に熱い物はちょっと…」
「日本人、熱イ時ニ辛イカレー食ベル。ソレト同ジ」
「お腹もそんなに空いてないから…」
「ウゥ…!」



あ、何だか落ち込ませてしまった感じかな?
ずーんと肩を落としているプラタックさん
チラシを配って宣伝して、お客さんも引き込もうと頑張っているのに、なかなか成果が挙げられないらしい

未だにお客さんはゼロ
しかも後から来た金髪の外国人に、次から次へと先を越されているらしい

外国人ってさっき、チラシをくれた人だろうか



「借金ガアル。故郷ニ送ル金ガ要ル。プラタックノ帰リヲ家族待ッテル…」
「何か身の上話されてる…!」
「社長厳シイ。チラシ全部配ラナイト、オ金貰エナイ。デモ皆、プラタックカラ逃ゲル」
「あぁ…それは見てたから解るかも」



それを親身に聞く私も、どうやら放って置けない性格のようだ
スマホで時間を確認する



「待ち合わせにはまだ時間あるし…良かったら手伝いましょうか?」
「エ?」
「チラシを配ればいいんですよね」
「デモ…」
「ささっと配ったら、プラタックさんは今日のバイト代貰えるよね! だからそれ分けて下さいっ」
「ワ、ワカッタ」



うーん、何か強引過ぎたかな?
プラタックさん戸惑ってるし
困っている人を見たら助けなさいって、小さい頃から言われてるから。つい条件反射でね

同じ笑顔なのに、どうしてあっちの外国人のは皆、受け取るんだろう
このままじゃいつまで経っても、チラシ配りは終わらない気がするよ



「ひぃ、ふぅ、みぃ…結構あるね」
「オ嬢サンガ貰ッテクレタノガ、最初ノ一枚ダ」
「おっふ…よし、頑張る!」
「ア、アリガトウ…ソウダ、名前聞イテナイ」
「私は名無し 地味子って言います!こう書くのっ」



スマホに自分の名前を打ち込んで見せると、プラタックさんは目を細めて神妙な顔をした




「日本人、名前難シイ」
「あぁ、そっか…じゃあ地味子って呼んで!」
「オーケー。地味子」



よし、私の名前も憶えてもらった事だし、チラシ配りを始めようかな!
そう意気込んでいると、ふとプラタックさんがじっと私の顔を見つめている



「地味子…地味子…うん?」
「えっ、何?」
「地味子ノ顔、何処カデ見タ」
「えー? 私、プラタックさんとは初めて会ったよ?」



外国人に知り合いは居ないし、プラタックって名前も…あれ、うーん?



「ツイ最近ダッタノダガ、思イ出セナイ」
「最近? …まさか『地味子ちゃん』じゃないよねぇ」
「?」
「あー、何でもないよ。その内思い出すといいねっ」




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