HERO GIRLA

□私の幼馴染とデートと花火@
1ページ/5ページ


探し人を求めて近辺を歩いていたら、思わぬ光景に目を奪われた



「へぇ…まだ桜は咲いてるんだな」



もう夏はすぐそこまで近づいていると言うのに、そこはピンク色の鮮やかな桜並木が、とても綺麗だった
華吹雪が舞い、手を伸ばせば花弁が手の上で踊る

幼馴染の彼女が知ったら、きっとキラキラと目を輝かせるだろうか
髪に花びらがついているのも構わず、嬉しそうに駆けまわるのだろうか

そう考えると、自然と口元に笑みが零れた



「…あぁ、いたいた。バスコ!」



そして――もう一人の幼馴染もまた、この光景に歓喜するのだろう
あの二人は似た者同士だからな、とまた笑ってみせる


しかし…



「翔瑠…」
「ど、どうした、バスコ?」



その予想に反して、バスコの表情は硬かった
神妙な顔をしていたかと思えば、汗が滝のように流れているし、明らかに様子がおかしいのが見て取れる



「何か心配事か? またあの一年が突っかかってきたとか?」



いや、それくらいの理由でバスコが、こんな顔をするはずがない



「助けてくれ。俺は、どうすればいい…?」



話してくれない事には、その解決の糸口すら掴めない

バスコがこんなにも動揺するなんて――
もしかして、地味子と何か遭ったとか?

いや、今朝はいつも通り二人で組み手をしていたし、特に喧嘩をしている風には見えなかった



「な、何が遭ったんだよ?」
「翔瑠…」
「ん?」
「俺は…デートをしなければならない」
「…は?」



バスコが…デートぉぉおおおっ!?






「――どうしたんだ翔瑠。いきなり招集をかけるなんて」
「何か遭ったのか?」
「何処か攻めてきたとか?」
「まさかゴッドドッグか!?」



それは、翔瑠からの緊急招集だった
集まったのは、バーンナックルでも屈強で強面の男達
傍から見れば、殴り込みへの緊急会議にも見えなくはない

自分を含めた六人の男達は、腕を組んで静かに思案する、翔瑠の発言を待っていた



「大木、お前は何か聞いてるのか?」
「いや…」



そう言って首を横に振る
翔瑠が招集した理由もまだ、明かされてはいない



「…皆、聞いてくれ。バスコの事だが」



やがて、その重い沈黙を破るように、翔瑠が口を開いた
その異様な雰囲気に、一同固唾を飲む



「バスコが――デートをするそうだ」



バスコがデート?

そして翔瑠の言葉に、誰かが『へー』と誰かが呟いた



「緊急招集って言うから、何かと思えば――」
「あぁ、意外と普通だったな」
「いや、バスコにとっては普通の事じゃないぞ?」
「ははっ。違いねぇっ」



緊張感に包まれた場の雰囲気が、一気に緩和された気がした
皆が思い思いの感想を述べる中で、俺はただ翔瑠の驚いた顔が気になっていた



「お前ら…驚かないのか?」
「いや、だって…なぁ?」
「おぉ!」
「相手は地味子さんだろ?」



それには俺も同意だ
バスコがデートをすると言った時、真っ先に浮かんだのは、彼女だったから

ちなみに俺まだ、彼女の事は諦めきれていない…



「バスコがデートするのは、地味子さんしかいない」
「別に驚く事のほどでもないだろう」
「わざわざ招集をかけてまで、言うべき事でもないよな?」
「まあ、翔瑠にとっては一大事かもしれんが――」



次第に笑いまでが生まれる空気になっていた



「あ、もしかして翔瑠。二人のデートを成功させようと画策して、俺らを集めたとか?」

「おぉー!」
「なるほど!」
「さすが翔瑠だ!」

「「おおおおっ!!」」



やがて彼らのムードは最高潮に、最早お祭り騒ぎとなっていた
かく言う俺は、その雰囲気に未だ乗り入れられないでいる

バスコのデートは応援したい…けど、それを羨ましがる自分が居た

ちょっとだけ、情けないと思った



「…そ、そうか。俺の言葉が足りなかったのか…」



やがて、翔瑠がそんな事を口にした



「翔瑠?」
「皆――デートの相手は、地味子じゃないそうだ」

「へー」
「何だ、地味子さんじゃないのかー」
「地味子さんじゃ、ない…?」
「…え?」

「「はああああっ!?!?!?!」」



皆が驚くも無理はなかった

俺を含め、翔瑠以外の全員が、てっきりデートの相手は彼女だとばかり、思っていたから…




「何でだよ!?」
「他の女とだなんて…!」
「バスコが浮気!?」
「そんな馬鹿な…!!」
「うぉおおお!!!」




まるで地獄絵図だ
阿鼻叫喚と言ってもいい

男達の悲しい叫びが木霊していた



「…ま、これが普通の反応だよな」



初めからわかっていたかのように、翔瑠は呟く




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ