HERO GIRLA

□私と届け物と仕事モードの父
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――とある休日の事だった

今日は何しようかと、ソファでゴロゴロしつつ考えていたら、お母さんが言った



「お父さんに着替えを持って行って欲しいの」
「着替え?」

「暫く泊まり込みで、家に帰れないみたいだから」



お父さんは仕事で家を空ける時がある
殆ど張り込みとか、仕事関係での泊まり込みが多くて、その度にお母さんが着替えを持たせていた

その着替えも底を尽きたとかで、お父さんが連絡をしてきたらしい
家に帰る暇もないそうだ



「いつも身なりは綺麗にしているからね。可哀想でしょう」

「『休日モード』はあれなのにね」
「ホントにね…」



同じ人であるにもかかわらず、この妻と娘の反応
本人が聞いたらどう思うだろうか



「家族よりも仕事を取るんだね」

「お父さんに何て事を言うの。寂しいの?」
「ごめんなさい。そんな訳ないじゃん」
「もうっ」



寂しいかなんて、そんな馬鹿正直に言える筈――おっと、口が滑るとこだった



「でも何で私? お母さんは?」
「お母さんは仕事なのよ。貴女は今日、休みでしょう?」
「暇してますけど…」



こうやってゴロゴロしているよりは、お使いを頼まれる方がいい
行き先がお義父さんの所って言うのが、何とも微妙だけど…



「しょうがない。行ってくるよ」
「着いたら、怪しまれないように受付で訪問のサインをするのよ」
「怪しまれないように…?」



そう言えば、私は何処に行けばいいんだろう?





――そんな訳で、到着した先は警察署でした

大きく聳え立つ建物を見上げ、持たされている着替えの入った紙袋を握り締める

お父さんの職場なんて初めて来る場所だけど、何故か緊張しているのがよく解った



…何も悪い事してないよ、私

ワルを倒したのは人助け
ちょっと遅刻しそうだったから信号無視したし、人垣の塀を乗り越えて近道をしたりした

あれ、不法侵入――げふんげふん

あとは譲さんや淳助さんと一緒にお金の回収
ヤバいお金じゃない事を祈る



「そうだ。お父さんに電話しなきゃ」



いきなり行っても、お父さんが見つからなかったらどうしようもない
今日、着替えを持って行く事は知ってるだろうけど、私が来るとは知らない筈だ

自分で言うのもなんだが、娘を溺愛している父を相手にするのは、ちょっと面倒臭い



「…あれ。出ないや」



数コールの後、留守番電話サービスのガイダンスが流れた
どうやら忙しいようだ
じゃあ、着替えは道端において私は帰ろう――という訳にはいかないよね

深い溜息を吐いて、中に入る
足取りが重く、顔色も悪かったのか、入り口前で警備をしている人に、いきなり怪しまれた

そしてそれは、受付のお姉さんも同じだった
私の様子は相当ヤバいらしい



「ど、どうかしましたか?」



よく考えたら、何もやましいことはないんだし、私は堂々としていればいいんだ、うん!



「だ、大丈夫です。すみません」
「?」


何だか此処は居心地が悪い
さっさと着替えを渡して帰ろう…

そう言えば、お父さんの部署って今は何処だっけ?
そう思い、ふと案内板を見た


刑事だし、悪い人を捕まえてるから刑事課?
あ、でもこの前はパトロールしてたし、地域課?
非行少年の指導もしてたし、安全課?

…あれ、何処だ?



「うーん…」
「あのー?」



同じ警察署内に居ても、お父さんの事を知っているとは限らない
名前を告げても、同姓同名だっているかもしれないし…
でも、一応聞いてみようか



「えっと…お父さんを探してるんです」
「…お父さんを探してるの?」
「はい。一昨日から(仕事で)帰ってないって、お母さんが言うから」
「…!? それは心配ね!」



…あ、此処に務めてるって言う事を言い損ねた



「実は此処に…」
「待っててね。すぐに係の人を呼ぶから」
「あ、はい」



係の人って何だろう
お父さんを呼んでくれれば、一番早いんだけどな

程なくして、別の女の人が来た
警察官の格好をした女の人――婦人警官だ



「お父さんを探してるのね?」
「あ、はい」
「貴女のお名前は?」
「名無し 地味子ですけど」
「そう。名無しさん、此処じゃなんだから、別室で話を聞きますね」



何で別室なのかは解らないが、この人に付いて行けばいいんだろうか



「は、はぁ…」

「お父さんを探してるんですって」
「家でかしら?」
「娘さんが探しに来たみたいよ」



…あ、なんか言われてる

これ以上此処に居たら、受付のお姉さんの可哀想に見る目が辛いから、着いて行こう…



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