HERO GIRLA

□僕と友達と飛ばし通帳
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…僕には、友達と呼べる人が居なかった

ファッション学科にはイケメンが居れば、個性的な奴も多く、その中でも僕は完全に透明人間だった
誰も僕を見てくれない
誰も僕に構ってくれない

ただ、彼らの背中を追い続けていた
必死になって追い続ければ、その隣に立たせてくれるんじゃないか

そう思っていたから――



「おいおい。いよいよこれって深刻じゃねぇの」
「うん…此処まで地味子が意地っ張りだとはね」
「意地っ張りじゃないもん。晃司が悪いんだもん」
「人の所為にすんな馬鹿」
「明里ちゃ―ん!」
「地味子、素直になりなさい?」



あの明里ちゃんでさえ、輪の中にするっと入っている
僕なんかずっと同じクラスなのに、誰とも遊びに行った事がない
放課後にお茶をする事だって、一度も…

こうして、同じテーブルでご飯を食べていても、話しを振ってくれる人も…



「うう…此処には私の味方なんて、誰も居ないんだ」
「…! ぼ、僕が…っ」
「地味子ちゃん! 俺! 俺はずっと君の味方だぜ!?」
「あー。はいはい」
「適当!?」



何で此処に道也が居るのかもよく解らない
地味子ちゃんが大好きだって言うのは皆、周知の事だけど…そんなに仲が良かったのかな

道也が誕生日会に呼ばれるぐらいだもんね



「あ? 何見てんだよオメー」
「ご、ごめん…!」
「道也、森永を虐めないの」
「はいっ、地味子ちゃん!」
「完璧に犬だな…」
「流星もね」
「!?」



流星を相手に、そんな軽口なんて僕には叩けない
彼女は本当に凄いと思う
どんな相手にも臆さないし、身体は鍛えてるし強いし、『地味子ちゃん』だし

今日だってカツアゲから助けてもらったし、その前も、そのまた前も――


そう思うと、僕は彼女から気に掛けられてる?
も、もしかして…僕に気があるとかっ!?

そう思うと、ご飯を食べる手は震え、顔は紅くなる
だって今、僕は地味子ちゃんの隣に座っているから…!



「どうしてそんなに頑なになるかなぁ」
「変な意地張ってんじゃねーよ」
「か、仮に怒ってたとしても、その理由は??」
「普通に考えて、別の女とデートしてたのが許せないんだろ」
「へー。そういうもんなの?」
「いや、それしかねぇだろっ」



恋愛一般に疎い彼女は、こうして皆に突っ込まれても、いまいち要領を得ないようだった
あのバスコが彼氏なのに、恐がるどころか普通に居るし
幼馴染だからかな?

僕なんか彼女すらいないし…
地味子ちゃんみたいな強い子だったら、いつも僕の傍に居て、いつでも護ってくれるんだろうか――なんて



「これは――地味子にも理由が解ってないのかしら?」
「嘘でしょ…」
「…何かすみません」
「地味子ちゃん。本当はバスコと仲直りしたいんでしょ?」
「…むぐむぐ」
「えっ、無視!?」



皆と居るのに
わいわい話しているのに

なんだか寂しかった
僕はいつでも孤独だった



誰も僕を見てくれない

誰も僕に構ってくれない――




「地味子ちゃん、一緒に帰らない?」
「いいよー。蛍介が誘ってくれるなんて珍しいね」
「そ、そうかな…」
「はいっ! 私も一緒に帰るー!」
「美怜ちゃんも? 勿論だよ」
「じゃあ私も。流星もね」



皆で帰ると言い出した時、誰も僕を誘ってくれなかった
帰る方向、僕も一緒なんだけどな…

それでも気付いて欲しくて、皆の後を追いかけた
『一緒に帰ろう』と誘ってくれなくても、一緒にさせて欲しかった



「…あ、あれー。バスコと翔瑠だ!」
「ホ、ホントだーっ! お髭の人も帰りなの?」

「ん? 美怜が此処で待っているようにと――痛い」
「そ、そうなんだよっ。お前らも帰りなのかっ?」



校門のところに、バスコと翔瑠が居た
それにしても今、翔瑠がバスコを押さなかった?



「う、うん、そうなんだ。良かったら二人も一緒に帰らない?」
「お、おうっ。いいよな、バスコ?」
「あぁ」



まさか、バスコと一緒に帰る日が来るなんて、思いもしなかった…!

感動と緊張で両手足が同時に出そうだけど、誰もそんな僕を気に留めない
話の中心はいつも彼女についてだったから



「…なあ。何だよこれ」
「こうでもしないと、地味子は逃げるの」
「マジか。重症だな、おい」



流星と瑞希が話しているのが聞こえる
一体どういう事だと地味子ちゃんを見れば――



「…」
「…」

「あー。放課後に一緒に帰るのって、久しぶりだよな。なっ?」

「そーですねー」
「…うむ」



翔瑠を間に挟んで、地味子ちゃんとバスコが歩いてるんだけど、珍しく会話がないらしい
それは、何かの理由で喧嘩をしているからってぐらいにしか、僕も解らない



「翔瑠。地味子はまだ怒ってるんだろうか…」
「ど、どうなんだよ、地味子?」
「何が―?」
「だから、バスコをまだ怒ってるのか?」
「別に怒ってないとそっちの人に伝えてください、翔瑠さん」
「明らかに怒ってんじゃねぇか…」



そんな地味子ちゃんの様子に、美怜が後ろを盗み見る



「せっかく一緒に帰る算段をつけたのにぃっ」
「本当に意地っ張りなのね。あの子…」
「地味子ちゃんにしては珍しいよね」
「それだけバスコが好きなんじゃねぇの…いてっ!?」
「あ、ごめん流星。鞄が手からすっぽ抜けた」
「明らかにそれで殴ったよな、今!?」



あはは、と小さな笑いが生まれる
僕もそれに倣って笑った
それだけしか出来なかった



僕を見てよ

僕は此処に居るんだ

一緒に居る筈なのに、僕の足は動いてくれなくて
皆に取り残される気がして、嫌だった


僕は透明人間

誰も僕を見てくれない

誰も僕を――構ってくれない



それが――彼と出会いによって、世界が変わって行くことになる

いい意味でもあり
悪い意味でもあるんだけど

この時の僕は、想像も出来なかったんだ



――カシャリ



「…ん?」


ふと、地味子ちゃんが僕を見た、見てくれた!


「ど、どうかした…?」
「…ううん、何でもない。あ、私はバイトなので此処で!」
「結局、会話の一つもなかったな」
「そうねー」
「…」
「バスコ…!」



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