HERO GIRLA

□私と友達と飛ばし通帳
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「まただ。此処にも貼ってあるよ」
「ちっ。多すぎるぜ」



主に電柱に貼ってある、この界隈でよく目にするそのチラシ
それを何度、忌々しげに見つめた事だろうか



「もう見たくないよ。皆が待ってるし早く行こう?」
「あぁ、そうだな」



森永が『飛ばし通帳』による被害に遭っている
そんな相談をしたら、一時間もしない内に皆は集まってくれた
繁華街にある、インターネットが出来るお店に行くと、早速作戦会議は行われることになる



「――この馬鹿がまたやらかしやがった。俺達で森永を助けてやろうぜ」
「うんっ」
「僕の所為で、ごめん…!」
「気にしないで森永。友達なんだからさ」



そう言ったのは蛍介だった



「銀行も土日は休み、警察には言えねぇから、その間に起きている詐欺は止められねぇ。俺達で、土日の間に犯人を見つけ出すぞ」

「何とかして、森永の通帳を取り返さなくちゃねっ」
「でも流星。何をどうしたらいいのかな?」



美怜ちゃんと瑞希ちゃんも来てくれている
通帳を取り返すと言っても、瑞希ちゃんの言う通り、何をしていいのか解らない



「安心しろ。俺に考えがある」
「ほう。それは何だ?」



そして何故、この場に晃司が居るんだろう…
いや、別に居てもいいんだけどさ
わざわざ森永の為に来てくれたんだろうか
今日は翔瑠がバイトだから、てっきりそっちに居ると思ったのに



「被害者からの通報は、月曜日以降に受理されるはずだ。その前に通帳を取り返して、被害金を返す」

「やはり通報されるとマズいのか?」
「名義を貸すこと自体が犯罪だからな」
「なるほど…」

「通報を止める為には、被害者がこれ以上増える前に、一刻も早く詐欺師を捕まえるしかねぇ」



この土日で見つけられるかが勝負だ
もう既に土曜日の夕方だ
時間はあるようでない



「全くもうー」
「馬鹿じゃないの?」



女性陣に責められ、森永はぐうの音も出ないらしい
自業自得と言うのをよく解っているようだ



「其処で俺はIDに眼をつけたんだ」
「ID…?」

「ハイフォンXで詐欺をした時に使った番号で、検索してヒットしたIDだ」



流星がリストにして見せたのは、沢山の英数字が並んだ文字羅列
それらは全てIDで、これを一つずつ検索して調べれば、犯人に繋がる手掛かりが出てくると踏んだ



「流星凄い!」
「へっ。これくらいどうってことねぇよ」
「じゃあ、このIDを片っ端から調べればいいのねっ」
「おう。早速手分けしてやるぞ」



それぞれがPCモニターの前に席に着く
だが、一向に座る様子もなく首を傾げる晃司が其処に居た



「流星…ちんぷんかんぷんだ」
「お前は地味子に教えてもらえ」
「えっ!?」



いきなり何を言うんだ流星!
私だってよく解ってないのに、人に教えてあげられるほど頭もよくないし!

それに、それに――まだ謝ってないから、合わせる顔が何処にもないんだ!



「完全にそっぽ向いてるけど?」
「お髭の人と目も合わさないわね。これで何日目?」
「まだ喧嘩してんのかよ、こいつら…!」
「ううう…っ」



今すぐに逃げたい
でも森永を助けなきゃ

でも、でも…!



「つーか、翔瑠はどうした? あいつも呼んだつもりだったんだけど」

「翔瑠ならバイトだ」
「バイトなら仕方ねぇな…」



いいな、翔瑠
私も今すぐにバイトに逃げたいよ


ん、バイト?

――あれ? 何か忘れている気がする…



「――そう言えば地味子ちゃん、店長は大丈夫なの?」
「え?」
「ほら、腰を悪くしたって…け、蛍介が言ってたから!」
「店長…あああっ!」
「ど、どうした!?」

「コ、コンビニ!! 店長が腰を悪くしちゃって、夜だけでも私が開けないと…!」



そうだ、店長が開けられないから私が代わりに開けるって、約束したんだ
勿論、コンビニは暫く休みするとも言われたけど、売り上げがなかったら店長も困るだろうし!



「はぁ? お前もバイトかよ」
「ご、ごめん。森永ですっかり忘れてた!」
「何だその理由」

「お店を開けないと売り上げが立たないし、何より店長は生活にきっと困ると思うっ。一日だけじゃなく、もしかしたら数日、いや一週間、ううん。一ヶ月のお休みかもしれないし…!」



私は別にバイト代を貰えなくていいが、店長は生活がかかっているからね!
前から腰が痛いってぼやいていたし、いつ治るのかも解らないもん

その事を必死に訴えたら、流星も解ってくれたみたいだ



「解った! 解ったから、早く店を開けてやれよ」

「うう…ごめん、森永。手伝えなくて」
「い、いいよ…僕の所為でもあるんだし」

「皆もごめんっ。蛍ちゃんが来たら、直ぐに私も手伝いに戻るから!」

「(…! しまった。僕も夜は入るって言っちゃったんだ!)」





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