HERO GIRLA

□私と彼とボクシング
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――とある休日



「はっ…はっ…」



一定のリズムを保ちながら、流星は走り込みをしていた
朝早くからのランニングは、茹だるような暑さの中では少しばかり堪える
それでも流星は足を止める事なく、真っ直ぐに前を見つめて距離を稼いでいた


――強くなる!


そんな想いが、彼の胸には秘められていた


以前立ち寄った公園で、バスコとチビ蛍介が同じように走っている姿を見たことがあった
チビ蛍介が死に物狂いで走る姿を見て、自分はどれぐらい筋トレをしていなかっただろうかと、ふと思った

ボクシングを辞めてから全然鍛えてなかったし、思えば体育祭で蛍介に負けた敗因は、完全にスタミナ不足
皆の前で、瑞希の前で無様な姿を見せてしまった事は、記憶に深く刻まれていた


高速のパンチだなんていうくらいに素早い拳も、今じゃ――こんなにスピードが落ちているのか
自分の不甲斐なさに軽く落ち込んでいると、チビ蛍介がそれを見ていた事に気付くのが遅れた

軽く睨みを聞かせてやれば、奴は余りにも直ぐに逃げ出した
それだけなら良かったのだが――少し離れた先で、あいつは俺と同じ動き――シャドーボクシングの真似を、完全にコピーしていたのだ



ボーっとしているように見えて、実は天才なのか…!?

コンビニの蛍介に真似されるようじゃ、俺もまだまだだ!

俺はもう、誰にも負けるわけにはいかない…!



向かうところ敵なしとされていた自分の前に立ち塞がったのは、かつて友人だった男
負けた時の屈辱は、忘れたくても忘れられない、苦い記憶として今も残っている


負けたままじゃいられない
絶対に勝つ


だからこそ、自分を鍛え直す為にも初心に返るのにしたのだ



「…はっ…はっ…そろそろ戻るか…」



今日はいつもより距離を伸ばしてみた
どうやらまだ余裕があるらしい

日に日に体力が戻ってきていると感じながら、流星は自分が通っていたボクシングジムへと戻っていく






――その姿を、地味子は偶然見かけていた



「あれれ、流星だ…行っちゃった。速いなぁ」



声を掛けようにも、この距離じゃ届かないかもしれない
それに、とても真剣な表情で走っていたし、声を掛けるのも憚られた



「…付いて行ってみようかな」



気を見て流星に声を掛けてみよう
丁度ジャージ姿でよかった
朝の筋トレの帰りだけど、学校は休みだし、これは自主練って事で!



「♪」



何処まで走るのかと興味を持ちながら、着かず離れずの距離を保ちながら、私は流星の後を走った



流星は走り続けた


五分

十分

いやもっとかもしれないな


蛍ちゃんの様に、流星も筋トレを始めたんだろうか?
だとしたら、筋トレ仲間が出来て嬉しく思う

それにしても流星は速い
これが彼のいつものスピードなら、私も見習わなくちゃいけないな

まあ、体力はまだ平気だから着いていくけども…あ、何処かに入って行った


其処は――なんとボクシングジムだった!



「え。ボクシングって辞めたんじゃ…」



勝手に入ると怒られるかもしれないと、こっそり窓から覗き込むことにする
其処では、ボクシングをしているであろう男の人が沢山いた



「おぉ…!」



思わず漏れる、感嘆の声
キラキラと輝く瞳は、まるで子供のようだ



「ムキムキがいっぱいだ…!」



此処は天国なのでしょうか?

いいえ。ただのボクシングジムです




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