HERO GIRLA
□私と彼とボクシング
1ページ/8ページ
――とある休日
「はっ…はっ…」
一定のリズムを保ちながら、流星は走り込みをしていた
朝早くからのランニングは、茹だるような暑さの中では少しばかり堪える
それでも流星は足を止める事なく、真っ直ぐに前を見つめて距離を稼いでいた
――強くなる!
そんな想いが、彼の胸には秘められていた
以前立ち寄った公園で、バスコとチビ蛍介が同じように走っている姿を見たことがあった
チビ蛍介が死に物狂いで走る姿を見て、自分はどれぐらい筋トレをしていなかっただろうかと、ふと思った
ボクシングを辞めてから全然鍛えてなかったし、思えば体育祭で蛍介に負けた敗因は、完全にスタミナ不足
皆の前で、瑞希の前で無様な姿を見せてしまった事は、記憶に深く刻まれていた
高速のパンチだなんていうくらいに素早い拳も、今じゃ――こんなにスピードが落ちているのか
自分の不甲斐なさに軽く落ち込んでいると、チビ蛍介がそれを見ていた事に気付くのが遅れた
軽く睨みを聞かせてやれば、奴は余りにも直ぐに逃げ出した
それだけなら良かったのだが――少し離れた先で、あいつは俺と同じ動き――シャドーボクシングの真似を、完全にコピーしていたのだ
ボーっとしているように見えて、実は天才なのか…!?
コンビニの蛍介に真似されるようじゃ、俺もまだまだだ!
俺はもう、誰にも負けるわけにはいかない…!
向かうところ敵なしとされていた自分の前に立ち塞がったのは、かつて友人だった男
負けた時の屈辱は、忘れたくても忘れられない、苦い記憶として今も残っている
負けたままじゃいられない
絶対に勝つ
だからこそ、自分を鍛え直す為にも初心に返るのにしたのだ
「…はっ…はっ…そろそろ戻るか…」
今日はいつもより距離を伸ばしてみた
どうやらまだ余裕があるらしい
日に日に体力が戻ってきていると感じながら、流星は自分が通っていたボクシングジムへと戻っていく
――その姿を、地味子は偶然見かけていた
「あれれ、流星だ…行っちゃった。速いなぁ」
声を掛けようにも、この距離じゃ届かないかもしれない
それに、とても真剣な表情で走っていたし、声を掛けるのも憚られた
「…付いて行ってみようかな」
気を見て流星に声を掛けてみよう
丁度ジャージ姿でよかった
朝の筋トレの帰りだけど、学校は休みだし、これは自主練って事で!
「♪」
何処まで走るのかと興味を持ちながら、着かず離れずの距離を保ちながら、私は流星の後を走った
流星は走り続けた
五分
十分
いやもっとかもしれないな
蛍ちゃんの様に、流星も筋トレを始めたんだろうか?
だとしたら、筋トレ仲間が出来て嬉しく思う
それにしても流星は速い
これが彼のいつものスピードなら、私も見習わなくちゃいけないな
まあ、体力はまだ平気だから着いていくけども…あ、何処かに入って行った
其処は――なんとボクシングジムだった!
「え。ボクシングって辞めたんじゃ…」
勝手に入ると怒られるかもしれないと、こっそり窓から覗き込むことにする
其処では、ボクシングをしているであろう男の人が沢山いた
「おぉ…!」
思わず漏れる、感嘆の声
キラキラと輝く瞳は、まるで子供のようだ
「ムキムキがいっぱいだ…!」
此処は天国なのでしょうか?
いいえ。ただのボクシングジムです
・