HERO GIRLA

□親子と休日と団欒
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「えぇと。玉ねぎとじゃがいもと人参と…」



お母さんに持たされた買い物メモを片手に、それを読み上げる
晩御飯は何だろうと想像するのは、とても心が躍る
そんな私を、ニヤニヤしながら見ている男の人が居た



「酷いっ! せめてニコニコって言おうねっ!」



おっと、心の声がダダ漏れだったようだ
詰まる所、うちのお父さんである



「何でそんなニコニコ顔なの」
「いや〜。久しぶりの休日だし。それに地味子と歩けるなんて嬉しいからね!」
「ただの買い物だからね、晩御飯の」
「重い物はお父さんに任せなさいっ」



ドンッと力強く胸を叩いたお父さんは、直ぐにゲホゲホと咳き込んでいた
大丈夫なのか
こんなんで重い物なんて持たせて、骨折なんてしないか心配だ

父の骨の脆さに嘆きたい



「わー、頼もしいー。頼まれてないけど、お米とお醤油と味醂とお酒とその他諸々買うから、頑張ってね」

「ちょっと待ってて! 車取ってくるから!」
「行かなくていい」



涙ながらに脱兎しかける父を制止した



「嘘だよ。必要な分しかお金を持たされてないし、買うの面倒だもん」

「ほっ。地味子はいい子だね、うんうん。そのお金でちょーっとお父さんのビールの一本でも…」

「『余計な物を買うんじゃありません』って、お母さんが言ってたよ?」

「え。余計な物なの?」



そんな会話をしながら、道の往来を歩いていく
繁華街を抜けて行くのは、その先にある大型スーパーマーケットを目指しているからだ

近年発展していく商業施設の中に、それはあった
品揃えが豊富でお値段もお手頃
家から近い事もあって、我が家の御用達だ

お父さんが一緒なら車でとも考えたのだが、どうせなら歩いていきたいと言う父の願いに、私は了承する
車を使ったら荷物持ちにならないし、先程も言っていた通り、父にしてみれば休日に娘と歩けるなんて嬉しいらしいから


ちなみに休日なので、当然お父さんも『休日モード』
ボサボサ頭に無精ひげ、上下スウェット、履物はサンダルだ
完全にダルダルスタイルである

繁華街は何処行っても人の眼がつくのだが、お父さんは鼻歌混じりに私の隣を歩いていた



「…」
「ん。何?」
「仕事じゃないと、何でそんなに力が抜けた感じなの?」
「いつも力が入っていたら、疲れちゃうもん。真面目って大変なんだって。リラックスよ、リラックス」
「真面目ねぇ…いつも『仕事モード』なら平和だね」
「えっ。『休日モード』を嫌悪してない?」



『仕事モード』だろうが『休日モード』だろうが、私にしたらどっちもお父さんに違いない
娘を溺愛する、超絶面倒臭いお父さんだ
そんなお父さんを、私は尊敬していないと言えば――まぁ、嘘になる



「はっ。もしかして、お父さんが隣を歩くのが嫌なお年頃っ!? その内洗濯物も別にしてって言い出すんじゃ…!」

「随分前から洗濯物は別々だよ」

「ううぅぅっ…!」
「道の往来で泣かないの」



ぐいっと腕を引いてやれば、えぐえぐと嘘泣きをしながら歩き出す
大人がこれでいいのだろうか



「『仕事モード』で来たらお父さん、モテモテだから。イケメンだし」



ふと、そんな事を言い出した
未だに私の中で、イケメンの定義と言うものが確立されていなかったりする



「へー」
「あ、その顔は信じてないな?」



でも、お母さんが認めるくらいだから、きっとそうなのだろう



「いや、信じてるよ? そっか、お父さんモテモテなんだ」

「勿論『休日モード』だって負けてないけどねっ。ほら、あのお姉さんなんか、さっきからお父さんの方見てるし」

「じゃあ道行く女の人に見られて、デレデレしてたってお母さんに言おう」

「地味子、あそこにアイスクリーム屋さんがあるよ。お父さんが買ってあげよう。何十個?」

「口止めか」



そんなことしなくても、お父さんがお母さんを大好きだって事は解ってるよ

女の人がお父さんを見ていたのは、私も気づいていた
一人じゃなく、何人かすれ違う度に振り返ってまで、眼が追いかけて来ている

似たような光景を、私は学校で何度も目にしていた
勿論蛍介である



「お使いが済んだら買って貰うよ」



『キングサイズをトリプルで』って言うのが、ちょっと憧れのお店を通り過ぎた
今日も女性客が多いなぁ



「…あれ?」



アイスクリーム屋さんの前で、見知った人を見かけた気がした



「流星? でも…」



直ぐに声を掛けなかったのは、ほんの少しだけ自信がなかったからだ
何せ、流星と思わしき男の人が3歳くらいの小さな女の子を連れている

その子の可愛いお団子頭を見て、ちょっと
だけ瑞希ちゃんに似ていると思った



「ん? 友達?」
「うん、多分流星だと思うんだけど…子供を連れてるんだよね。瑞希ちゃん似の」

「流星君は、お父さんだったの?」
「いや、そんなはずはないと思うんだけど…」
「じゃあ隠し子」
「瑞希ちゃん以外の誰だって言うのよ」



女の子は流星から両手でアイスを受け取り、とても嬉しそうだ
あんな可愛らしい笑顔なら、流星も多少なりと笑みを零すだろうと思ったのだが、様子が変だ
何だか困っているようにも見える



「…お父さん、職質ってどうやるんだっけ」
「その顔じゃ警戒されるよ。あくまで平然を装って」



おっと、いつの間にか険しい顔になっていたようだ




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