HERO GIRLA

□私とお使いとお願い
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結論から言うと、おじいちゃん先生のお願いとは、ただのお使いだった
『知人に茶器を届けて欲しい』との事である

おじいちゃん先生は用事があるから行けず、代わりに私が行く事になった
ヒーローウーマンよりも簡単でよかった!


持たされたチラシには、地図が印刷されてある
学校からそう遠くない距離のようで、早速学校帰りに行く事にした



「えーっと、何処だろ。何かのスタジオみたいだけど」



よくある、写真館のような名前の場所だな
そう言えば、学校帰りに寄り道はするなと担任は言うけれど、これはおじいちゃん先生公認だ

つまり、校長先生の指示
先生だって文句言えないよねっ

今時、寄り道しない高校生もそう居ないだろうが、何となく優越感に浸ってニヤニヤしてしまう



「あ、アイスクリーム屋さんだ。この前結局買って貰えなかったから、帰りに買って食べよう」



いつも行列を見せるそこを通り過ぎようとしたところで、声が聞こえた



「待ってよ、雨宮君っ」
「雨宮?」



知った名前が呼ばれた気がしてそちらを見ると、理央がいた

少し足早に歩く理央の後ろを、女性がついていく
誰だろう、あの女の人――何処かで見たことあるような?



「ねぇ、どうして避けるの?」
「い、いや。避けては…」
「じゃあ今日こそ遊びましょう?」
「えーっと…」
「ほら、また避けようとしてるー」



参ったな…と理央の顔が完全にそう物語っていた
困っている様子が伺えたので、声を掛けてみることにする



「理央?」



すると、二人が此方に気づいてくれた



「地味子っ」
「地味子? …誰なの?」



少しだけ、女性の方が訝しむような眼で此方を見ている
何かこの感じ、懐かしいなぁ



「どうしたの。もしかしてデート?」
「そんな訳あるかっ」
「えっ。私はそう思ってたのに…」
「ああああっ! すみません!」



今にも泣きそうな彼女を、雨宮は必死に頭を下げて謝っていた



「駄目だよ、女の人を泣かしちゃ」
「お前は黙ってろ…!」
「何それ酷い」
「雨宮君。この子は?」
「あ、あぁ…俺の先輩なんだ」



先輩、と口の中で彼女が言う



「あっ。バスコの幼馴染だよ」
「そう、馬場君の…」
「?」



晃司を名字で呼ぶ人は、そう居ない
じっと見つめてくる彼女を同じように見つめ続けた

何処かで見たことがあるその人は――そうだ、晃司のデート相手!



「あ、思い出した。聖奈さんだ」
「私のこと、馬場君に聞いたの?」
「あー、うん。そうなの」




尾行していたなんて言えないと、私と雨宮は同じように口端を引きつらせる




「二人はどうして?」
「デートよ」
「だから違うって」



きっぱりと聖奈はそう言ったが、雨宮がそれを否定する
聞けば、彼女は何と才源高校から待ち伏せ――いや、ついてきたと言う



「まさか帰り道に遭遇するとは思わなくて」

「ふふっ。雨宮君ってばお友達が多いから、どう声を掛けようか迷っちゃったわ」

「じ、実はこの後、超ウルトラ花火大会が…!」

「それはこの前やったんでしょう? 私とデートの日に」




彼女の夜のお誘いを断ってまで、晃司が優先したこと
それは雨宮が吐いた嘘だった

その嘘が今、自分を苦しめているなんて、雨宮も災難である



「地味子、助けてくれ…」
「助けるって、何で?」
「解るだろ。彼女は俺を勘違いしてるんだ」



雨宮は生物学上――『女性』である

見た目と雰囲気から、聖奈は雨宮を『男性』だと思い込んでいる
だからこそ、自ら誘いをかけているのだ



「ねぇ、二人して何をこそこそしてるの?」
「い、いやっ。何でもないっ」
「雨宮君。その子とはどういう関係?」
「関係って言われても――さっき言った通り、ただの先輩だよ」



さっきは『ただの』なんて言われなかったが――ひとまず私は頷く
聖奈からしたら、仲良く(?)話をしている私の存在を、よくは思わないのだろう

その証拠に、雨宮の言葉を聞いた彼女はホッと安堵の表情を見せていた



「彼女は居ないって、さっき言ってたじゃない」
「あぁ、まぁ…」
「それなら、遊ぶくらいいいでしょう?」
「そうだよ。別に減るもんじゃないし」
「お前なぁ…」



どっちの味方だよ、とジト目で見られた
私は別に、どちらの味方と言うのではないのだが…仕方がない



「でも理央は、私のお使いが終わるまで、待っててくれるんでしょ」
「え」
「あら。お使いなの?」
「おじいちゃん先生――校長先生に頼まれてね」
「そんな事あるのね…」



聖奈は本当に驚いた顔をしていた
そうか、普通の生徒は校長先生から頼まれごとなんて、しないんだっけ



「中学の時から仲がいいだろ、あの人と」
「何で理央が知ってるの?」
「何でって、そりゃ――…」
「お使いなら、忙しいわよね」



理央の言葉を待つ前に、聖奈が口を開く
大胆にも理央の腕にしがみつき、上目遣いで言う



「私たちも行きましょっ」
「行きましょっって…ちょ、引っ張らないでっ!」

「地味子さんだったかしら? お使いが終わるまで、雨宮君は私が相手しておいてあげるから。どうぞごゆっくり」

「はぁ、ごゆっくり〜?」
「馬鹿、手を振るなぁああああっ!」



雨宮の叫びも空しく、聖奈さんと共に繁華街の奥へと消えていく
モテる男は大変だね…あ、女だった



「あぁ、行っちゃった」



年上だし、女性だし、無下に扱えないんだろうね




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