小説

□静寂の月光
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俺はいつか殺される。
その覚悟はいつもできている。
ただ、その時がいつかは俺には分からない。
だからこそ、この一秒一秒が大切なんだ。
明日へと進む時間。

だが、今日その俺の時間は止まる。
大切な弟の手によって。
わかっていたさ。
お前が俺を好きなように俺もお前が好きだから。
きっと堪えられないんだろう。



俺がゼロであること。



俺がナナリーばかりを考えていることが…


全部が嫌だなんだろう。
お前は不器用なくせに、素直で純粋だから。
堪えられないんだろうな。



だから、お前が望む未来を俺が…



俺は一仕事を終え、そのままの格好で寝室に入る。
ドアを開けると、明かりも付けず薄暗い部屋の窓辺に弟が立っていた。

やはり、今日なんだな…

俺はすぐに確信した。


『どうした?明かりも付けずに』


弟は振り返ると、その手には拳銃を持っていた。
そして、その拳銃を俺に向けてきた。


「バイバイ、兄さん…」


そう弟は震える声で俺に言うと、引き金を引いた。

それを見た俺は、直前に囁くような声で言う。
それに重なるかのように、涙を堪えるロロの声が耳に届く。


「大好きだよ…」

『愛してる、ロロ…』


せめて、お前だけは死なないでくれ。
そう願うかのように…


部屋には乾いた銃声だけが響いた。


同時に俺の目の前が紅く染まる。
痛みはさほど感じることなく俺はその場に体を崩していく。

せめて、最期に抱きしめることができたら…

すまない、ロロ…

愛してる…


漆黒の闇へと意識を落として行く。


そして、彼のの願いは届かずロロもその場に身を崩していった。


静寂の部屋にはただ月明かりだけが照らしていた。



【静寂の月光】
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