「……オイ」

どうしたんでィと何時もの軽口に体を揺らす。返事は無く、虚無感に溢れる。何時も赤く輝く夜兎族特有の服は今や緋色に染め上げられ、染まり始めた夕空に照らし出されている。只、それは四肢をだらしなく投げ出す骸に過ぎないかもしれなかった。だのに何故、こうも酷く喪失感を味わうのだろう。脈拍を確認しようとか、そう云う気分にならないのは何故だろうか。白い肌に絡み付く渇いた血はまるで人に寄生し群生する花の様で気味が悪い。何時も利発そうに此方を睨み付ける瞳は、今や薄く開かれたまま、色が薄れている。なんだか吐きそうな位の目眩を感じ、兎の頬に触れた。其は、人間の体温と云うよりは氷の様だった。記憶がオーバーラップする感覚に身を任せると、姉の死の瞬間を思い出したので考えを振り払い、更に目をつむる。何だよこれ、自分の理性と本能の葛藤が始まる。

「……さ…ド…っ」

か細い猫の様な声が聞こえ、下を向くと青く見開かれた瞳と目があった。驚きか、自分の背に冷たく汗が伝うのを感じた。

「なんでィ、チャイナ」

濁点がつきそうな位低音の呻き声が、奴の口から漏れる。

「ぎんちゃ…達は………ッ」

ドクンと脈打つ躯。何だか血圧が上がる様な、気持ちの悪い感覚。ふと、手に固いモノが当たった気がして目を落とす。自らの腰に差された、刀。自分の唯一無二の相棒。濡れ滴る刀は真っ赤に、しいて言えば薔薇の花の様な。苦しそうに声を漏らす少女を後目に刀に触れる。手中に吸い付き、ぴたりと収まる柄を手に、血のざわめきを感じた。ここは何処でも無い、戦場なのだ。





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