何だか、破滅って云うモノに興味があった。
僕は破滅なんて云うおわりかたはしないと胸に誓い、早数年。
未だに父の死を引き摺ってたりして、居心地悪いったら。
万事屋に雇われて、少しは変わったかななんて思ったけどちっとも代わり映えしなかった。
姉上はまだ時々涙を溢す時があるけど、其は少し違うと思う。
意地悪な事を云うかもしれないけど、死人に涙を流すなんて、下らない。
相手は幸せに(もしくは不幸せに)死んで逝ったと云うのに。
哀れ極まる末路など、誰も望まないと云うのに。


「新八?」


銀さんは時々狂っているんじゃないかと思う時がある。
だって、僕に、僕なんかに何で優しくしてくれるのか。
可笑しい位真剣な顔で。
何だかそんな銀さんを見ると、心まで苦しくなってしまう。
過呼吸になりそうな気分を腹の底に押し込み、僕は顔を上げた。
なんだか不安そうな銀さんの顔が見えた。


「お前、何かあったのか?」
「何言ってるんですか?…別に何も」
「嘘だろ」


ぴしりと背筋が凍る。
だらだら滝の様に汗が吹き出る。
カタカタ震える手を引掻きながら僕は言葉を漏らす。


「はは、自分で何言ってるかわかってるんですか?見てください僕の何処が何時もと違うと?」


銀さんが顔を歪める。
何だよ、そんな顔しないでよ。
ドキンと心臓が脈打つ。
一気に体温が上がったみたいだった。


「…やっぱりお前、おかしいって…いつもは…」
「五月蝿いっ!」


ハッと正気に戻る。
僕は今何と云ったか?
歯が、冷水に入った時みたいにガタガタ音を発てる。
馬鹿だなぁ。顔面蒼白。


「新…」
「触るなっ」


もう駄目だ。
目の前が赤いみたいになってもう息をする事すら億劫で。
僕は脱兎の如くに駆け出した。
何時もと違う空気に戸惑う様に世界を意識しだす。
下らない。
人をここまで感じたのは初めてだろうと思考した。
考えるうちに頭が痛くなってきた。
目を細めるといつの間にか暮れた夜空が見えた。
気持ちが良くて目を閉じると銀さんの声が聴こえた気がした。
意識を手放すと同時に温もりを感じた。



めまぐるしく廻る世界はまるであの人を手放したかの様で、
鈍く光るココロだけは、僕を見棄てない。


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