栄光部屋
□始
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十代が話さなくなって(勿論変化はそれだけではないが)2日後。
俺は十代と同居を始めた。
いや、本人の許可を取っていないから唯の居候かも知れない。
何に使っていたのかよく分からない最も小さな部屋にベッドだけを運び込み、残った荷物は俺の住んでいたマンションの一室と共に引き払った。
十代は何も考えずに無駄に広い部屋(俺が言うのも何だが)を契約した時に、やはり何も考えずに四人掛けのダイニングテーブルなんかを買っていたからそれだけでいいだろうと思った。
勝手に暮らし始めた俺を十代はどう思っているのだろうとそれを聞いても十代は答えなかった。
それでも朝、何時まで経っても起きて来なくなった十代を起こすと、決まってあいつは酷く恨みがましい顔をしたけれど、俺がそこに居ることに対して何かを思っている風ではなかったので。
十代は元々正規のプロデュエリストではなかったし、酷く気まぐれで気ままな生き方をしてきたので誤魔化すのは拍子抜けするほど簡単だった。
十代ほどの男が消えたにも関わらず騒動一つ起こらないのは何か不満が残ったけれども、どこか熱が下がったような気がするプロ界に、いや世界に、そんな物よりも余程大きな変化を見たような気がして。
そうして何一つ告げないまま十代はその姿を消して、近しい者達には俺が順に機会を設けて話をした。
十代の現状のついでに、同居の旨も伝えると、皆一様に曇った表情を少しだけ晴れさせ、多分互いに少し救われたような気持ちになった。
ヨハンだけは十代のことを話した時点で酷く取り乱してしまい、後日落ち着いてから出向いた際にそれを言うと、悔しそうな顔で睨まれた。
それから初めて俺は十代の家族のことを何も知らないことに思い至り、申し訳ないと思いつつ家捜しをしたがそれでも連絡先一つ分からなかった。
アカデミアに事情を話して問い合わせれば多分実家は分かるのだろうが、マンションをひっくり返しても連絡先すら分からないようなことを勝手に聞くのは躊躇われた。
この部屋は十代の名義だし、携帯だけでなく電話も引いているから向こうから連絡があるまで待とうと俺は決めて、そして一ヶ月が過ぎた今でも連絡はない。
関係ないが連絡先を知ろうと家捜しした際、いたるところから菓子類が転がり出てあいつはリスかと思いつつそれを片付けていたら、俺が以前(といっても5年近く前だ)アカデミアで好きだと言ったことがあるメーカーのクッキー缶があって、蓋にマジックで「万丈目用」と汚い字で書いてあったものだから俺は少し笑ってしまった。
+
最後泣かそうかと思いましたが、じょめはもう泣かないだろうなぁと何となく思えたので。
じょめは兄貴が無理をしないで生きている現状に満足しているので別に哀しくないのです。
そしてこんなところでまでヨハ子駄目人間(あーあ)。
自分が一緒に住みたいけど(精神的に)自分の事で一杯一杯な彼には無理。