栄光部屋

□眠
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「十代、眠いのか?」

 昼食の後片付けを終えてダイニングに戻ると、十代は机に突っ伏して不機嫌そうな表情をしていた。
 不機嫌は今日起こしてから終始だが(その十代に食事を取らせるのがどれだけ重労働か)。

 放っておけば際限なく眠るから程々で起こさなければならないのだが、今日はどうやら純粋に睡眠が足りない様子だった。
 昨日テレビでカイザーのデュエルが生中継されていて、俺がそれを見ていたら未だにそういう嗅覚は衰えていないらしい十代が起きてきて(本当に珍しいことに)、結局深夜まで俺の隣で食い入るように画面を見詰めていたから間違いなくそれが原因だろう。

「じゃあ少し寝るか」

 言いながら手を引いて、けれども動こうとしない十代と押し問答(怒鳴るのは一方的に俺だが)を続けること十数分。
 ようやく寝室まで引き摺って来ると十代はいそいそとベッドに向かう。現金な奴め。

「ほら、掛け布団の上に乗るな」

 どうにか横にさせて毛布を掛けてやる。
 そのまま部屋を出ようと身体の向きを変えたら、
 ぐいと、裾が引かれた。

「十代?」
「・・・」

 当たり前だが十代は何も言わない。
 取り敢えず手を離して貰おうと俺の手を掛けたら今度はそちらを掴まれて。
 直後、視界が180度回転した。

 ベッドに引き倒されて目を見開いた俺を十代はさも楽しそうに目を細めて。
 今のところ殆ど衰えを見せない十代の腕は何時の間にかしっかりと俺の背中に回されていて、そのまま眠るつもりらしく自身の胸に俺を抱きこんだ。

「十代、離せこら。苦しい」

 軽く胸を叩くと十代は少し腕の力を緩め、これでいいかと問いかけるように俺を覗き込む。
 いや俺は眠るつもりは全くないのだけど。
 言ってもこいつの都合良く出来た耳には聞こえやしないんだろうな。
 早々と目を閉じた十代の顔を溜め息交じりに見やった。

 かつてあんなにも狂気を孕んでいたのが嘘のように、今の十代は穏やかだ。
 どちらが、いや、どちらも本当の十代なのだろう。
 俺が決めることではない。十代は十代の在りたいようにこそあるべきだ。他でもない俺がそれを望んでいるのだから。

 そうしてごちゃごちゃと考えていると、いつの間にかそれを咎めるように十代がじっとこちらを見詰めていた。
 目は口ほどに、とはよく言ったもので。

「分かった分かった。俺ももう寝るから」

 ぽん、と十代の頭に手の平を押し付ける。
 そろそろ髪を切ってやった方が良いかも知れない。
 ぼんやりと思いながら十代が再び満足げに目を閉じるのを見届けると、俺も瞼を下ろす。
 まぁいいさ。どうせこいつの為に使うつもりだった時間だ。
 深く息を吸い込むと、胸に十代の匂いが満ちた。

 こうやって、同じ部屋に暮らして、
 一緒に食事をして、
 喧嘩みたいなことも飽きず繰り返して、
 時折こいつの弟分や天上院君達が遊びに来て、
 偶にはその腕の中で眠って、

 あぁ、何も変わらない。

『そうだな。変わらない。・・・・・・大好きだぜ、万丈目』

 夢の入り口で、懐かしい声を聞いたような気がした。


 栄光シリーズ(?)第4弾。
 他キャラとかも書きたいけどまだまだこの二人も書きたい。
 けどいい加減普通ssも書きますね。

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