栄光部屋
□挑
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目が覚めたら、丁度夜明けだった。
KC自らが主催するプロリーグの一つ。
三年に一度のその大会も、残すは決勝戦のみ。
そして俺は今日、その舞台へ昇ることになった。
その大会の優勝者には、あの海馬瀬人のパートナーである青眼の白龍を象った銀のトロフィーが送られる。
否、預けられる。
前大会の優勝者はチャンピオンとして登録され、3年後にリーグを勝ち抜いた一人と、トロフィーと名誉を賭けて戦うのだ。
けれど、今年はリーグ開始以来のチャンピオン不在という異常の中行われている。
それはひとえに前大会の優勝者の行方が知れないからだった。
優勝者の名は、遊城十代。
顔を洗って髪を整えてから黒いコートに袖を通して、十代の朝食の支度をしてついでに自分は朝食を取って、それから今日共に戦うデッキをざっと確認する。
一枚一枚丁寧に捲って、幾つかの戦術を描いて、
一つ、深呼吸。
ピンポーン
高く響く音にはっと振り返って、小走りで玄関へ。
「ちょっと早かったっスか?」
「いや、大丈夫だ。上がってくれ」
良かった。思ったより道路が空いてたから。
翔は言いながら靴を脱いでリビングへ。
「・・・デッキ、直してたんスか?」
「見ていただけだ」
テーブルに広げていたそれを纏めてホルダーへ収める。翔は手近な椅子に腰掛けてそれを目で追っていた。
「この期に及んでつつき回してるのかと思ったっス」
嫌味たらしく笑いながら頬杖をついた。
コーヒーを出すべくキッチンへ身体を向けて、肩を竦めて見せることでそれに答える。
翔も昨日までは優勝候補の一人だった。
けれども俺と翔は準決勝で当たり、結果、
俺は決勝への切符を手に入れた。
そして今日の相手は、
「『龍に同じき青眼の戦士、トロフィー奪還なるか!?』・・・だってさ」
翔が勝手に郵便受けから抜いたらしい新聞の一面を声に出した。
3年前十代が挑み、トロフィーを奪った相手は青眼の戦士こと若手最強と謳われたエド・フェニックスだった。
俺は挑戦者を決めるリーグの決勝で同じく十代に敗退。
共にリベンジャー、だが俺もエドもこの大会にその相手はいない。
「大方はエドが勝つだろうって予想してるみたいっスね」
俺とエドの直接対決はほぼ互角だが(ほんの少し俺が借りを作っているけれども)、通算の勝率はエドの方がまだかなり上だった。
「まぁ、僕を負かして得た権利なんだし、出来ればしっかり生かして欲しいなぁ」
受け取ったコーヒーに口を付けながら呟くようにぽつりと口にした。
「・・・全力で挑みはするさ」
俺もまた静かに答える。
「兄貴の事は心配ないっスよ。ちゃーんと僕が見てるから」
十代を翔に任せるのはこれが一度目や二度目ではないので最初から別に心配はしていない。
「起こすのは9時でいいんスか?」
「あぁ。別に多少早くても遅くても構わんが」
答えながらガラス棚に歩み寄り、50センチ程もあるトロフィーを手に取った。
一般には十代が受け取ったまま行方知れずということで、トロフィーもまた行方が知れないままだったが、俺が連絡くらいは取れると本部に話していたから、どうにか出場出来ないか、それが無理ならトロフィーだけでも返却出来ないかと泣き付かれ、返却だけならと俺は約束した。
今日、チャンピオン席は空席のまま、チャレンジャー二人の決勝戦で次の持ち主が決まる。
「じゃあ後は頼む」
言って、リビングを出ると短い廊下を通って玄関へ。
がちゃ
靴箱を開いたその音と重なって背後から、音。
「十代・・・」
寝巻きのままの十代は酷く不満げな表情で、早足に俺の前まで歩み寄って俺の手の中のトロフィーを引っつかんだ。
驚いて見返すと十代は睨むように一段高い場所から俺を見下ろす。
「・・・分かっている。これはお前の物だ。けどな、受け取って三年経ったこれはもうお前の好きにしていい訳じゃないんだ。それは、勝手に持ち出した事は・・・」
俺が、悪いけれど。
そう思い至り黙ってしまった俺は、ぱたぱたと軽い足音に顔を上げた。
「気にすることないっスよ万丈目君。兄貴はそういうものには全く執着ないんだから。万丈目君を困らせて遊んでるだけっス」
十代の後ろに立った翔が呆れたように言って、ほら、兄貴は朝御飯まだなんでしょ、と腕を引いた。
十代はそれでもまだ暫く名残惜しそうにトロフィーを握っていたが、少しして渋々といった様子で手を放してリビングへ足を向けた。
「十代」
翔の言ったことを最もだなぁと思いつつ、靴を履いてから十代を呼んだ。
十代は珍しく一度で振り返り、けれども少し離れたそこから動かないまま俺を見詰めた。
翔もちらりと俺の方を見たが、やれやれと肩を竦めて先にリビングへ入って行った。
「ちゃんと、持って帰るから」
きっと守って、もしも無理なら三年後に、或いは六年かかっても、九年かかっても、
「お前に返すから」
そうしたら、
「決着を付けよう」
今度こそ、俺とお前で。
十代も俺もじっと真っ直ぐに視線を逸らさず、
ごう、とドア越しに大きく一度風が鳴ったのを切っ掛けにどちらからともなく背を向けた。
「万丈目君にああ言って欲しかっただけなんでしょ?」
リビングへ足を踏み入れた十代を、翔は食器を並べながらそう言って迎えた。
不思議そうな表情でその言葉を聞き届け、次にはそれも忘れたようにテーブルに歩み寄り、並べられた朝食を楽しそうに眺める十代に、
「・・・兄貴、そういうずるい所は変わらないっスよね」
翔がまた呆れたように言って、
十代は何のことだとでも言いたげに笑って首を傾げて見せた。
+
プロ関連の話。兄貴はずるい人。
1ポンドの福音のドラマ最終回見てて、多分チャンピオンベルトが切っ掛けで出来た話。
どうもデュエルの実力は兄貴>越えられない壁>エド≧じょめ>翔の公式が揺らがない。
じょめとエドと翔と・・・んー、レイちゃんと吹雪さん辺りはちゃんと今まで通り接していけると思います。