栄光部屋
□再 −Side,M−
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俺は、いつまでもお前を追い続けるのだと思っていた。
俺は十代よりずっと早く沢山の称号や、それに伴う称賛を得て、だから誰より前にいると思い込んでいたけれど、
いつしか遙か後ろにいた筈の十代に追い抜かれたと勘違いをしていたけれど、
十代は初めから俺のずっと前を走っていた。
それにようやく気付いて、それからは十代を追うことに必死になった。
追いかけて追いかけて十代だけを見続けた俺は、十代の様々な表情を知った。
いつも前を向き強くあるお前が常に正しい訳ではないことも。
手も声も届かない俺には何をすることも出来なかったけれど。
それでも俺も足を止めることはしなかった。
そうして、少しずつ遠ざかっていくお前をそれでも追って行くのだと思っていた。
お前は俺を待たないし、いつか見えないくらいに離れていくかもしれないけれど追うことだけは出来るだろうと思っていた。
俺はお前を追ってプロになってリーグに出て決闘王を目指すのだろうと、
そうやって生きて行くのだと。
無意識にそう思いながらけれど俺はそれを自覚する訳にはいかなかった。
気持ちだけでも対等だと思っていないと、プライドの塊みたいな俺は耐えられなかった。
だって十代はいつだって俺を踏みにじって滅茶苦茶に傷付けて、なのに俺が俺の意思であいつを追い続けるなんてあってたまるか。
自覚しようがすまいが、追うことが出来なくなる日が来るなんて知らなかったんだ。
結局十代は決闘王どころかプロデュエリストにすらならなかった。
いつの間にか目指すこと自体やめてしまった十代は、物理的にも俺の前から消えて、
俺は、放り出されたように思って、道を見失った気がした。
けれども、俺は、そうだ傷ばかりではない。前を向く強さも確かに十代から貰ったと思う。
成し遂げたいと思い続ける強さも。
だから勿論、俺の夢は変わらない。
決闘王は俺がデュエルを初めて直ぐに、もう10年以上目指し続けた称号だ。強い強い願いだ。
―――けれど、
けれど、と俺は思う。
それはきっと、十代にとってもそうであったに違いないのに。
十代は入学するなり決闘王になると高らかに謳った。俺はその時無謀な奴がいい加減なことをと一蹴したけれど。
十代が決して軽い気持ちでそんな宣言をしていた訳ではないことを今は知っている。
決闘王はデュエリスト誰しもの目標であるけれどそんなことより余程強く、下手をすると俺よりも。
なのに、それなのに十代は挑む前にその夢を諦めた。否、切り捨てた。
そうせざるを得なかった。
俺が今こんなにもがむしゃらになるのは決して十代の為何かではないけれど、だって、
思ってはいけない。今だって十代には揺るぎない夢がちゃんとある。選んだ生き方があるんだ。
たとえあいつがこのまま2度と俺の前に現れることがなくたって、勝手に思ってはいけない。
哀れだなどと、思って良い筈がない。
「はぁ・・・」
また、負けた。
あぁ後1ターン早くあのカードを引いていれば。
いや言い訳だけれど。自分が勝った時そう思った人間だって幾らもいるだろう。
どうもこのところ調子があまり良くない。
下手をすると去年の勝率を下回ってしまいそうだ。
厳しい世界であることなど百も承知で飛び込んだけれど。
デュエルアカデミアを卒業して3年。
ようやく仕事も増えて来て(前評判があったから実は卒業直後が一番引く手数多だったという情けない現実は置いといて)、幾つか小さなリーグの常連にはなった。
優勝まで漕ぎ付けたのはまだたったの2つだが。
まだこれからだ、といつだって思うのだけれど、今日みたいに不本意な負け方をすると気も沈む。
それだけならいいのだけれど、こういう日は、酷い。
ふいに襲う虚無感が。
( ・・・違う )
だって何も失くして何かいない筈だ。俺は。
もやもやする気分を追い払うべく(或いは逃げようとしているのか)俺はとにかく早足で歩を進めた。
童実野町は何度か訪れたことがあるけれど、デュエルに関係ない場所は正直あまり詳しくない。
まぁ来た道を戻れば迷うことはないだろう、と深く考えずに歩き続けた。
そうして、30分も歩いただろうか。
目の前には自然公園があった。
平日だからだろうか。桜並木の下を歩く人間は殆どいない。
遊歩道は公園を一周するらしく、好都合だと足を進めた。
桜の優しい色合いに何だか急に気が晴れた気がして、大丈夫だ、と何に対してか思った時、
背後に強く、風が吹いた。
何か、呼ばれたような気がして振り返ると、散らされた名残のひとひらがふわりと地面へ舞い降りた、その、向こう側、に、
「・・・・・・十、だ・・・い・・・?」
逆光で顔は見えないけれど、分かる。立ち尽くす俺に満足そうに目を細めた十代は、ひらひらと手の中の紙を見せ付けて笑った。
「どうして、」
殆ど無意識に呟くと、十代はこちらへ歩み寄り、
「『いつでも来い、デュエルしてやる』んだろ?」
「!」
十代の手の中の今にも崩れそうなその紙はそれでも手放さないところも、だからといって大切にされている風でもないところも、どこまでも『らしく』て、
何も言えないでいる俺の前で立ち止まって、十代はまた笑った。
ガシャ、音と共に、赤い火が灯って。
「なぁ、やろうぜ、万丈目」
かつて、いや今までも、ずっと在った場所。鼓動、熱、ひかり、
痛いくらい暖かに、悲しいくらい鮮やかに、蘇る。
泣きたいくらいに。
今なら認められる。
俺はお前を追っていた。決して届かないその赤い背中を焦がれる程に想っていた。
お前をひたすら待ちながらそれでも走り続けたのはやっぱりお前を追い続けていたからなんだ。
痛みは消えなくて、不安は増して、でも、そんなことはどうでも良くて、ただ、ずっと、
祈るように想う。
そう、ただ、
俺は、君が好きです。
+
本編終了3年後。ようやく帰って来た兄貴。
結果が幸せとか、不幸とか、そんなの関係ないよね。だって俺は、君が好きなんだ。
という訳で万丈目サイド。準では十代と被るのでSide,Mで。
ファラオは兄貴の後ろ側にいます。多分。