栄光部屋

□告
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「俺、まだアカデミアにいた時に・・・っていっても臆病だったから卒業の直前だったけど、レイちゃんに告白、したんだドン」
「そう」

 少し高級な和食屋で、日本酒を酌み交わしながら、ぽつりと剣山は言った。
 早乙女レイは、5つ歳下の2つ後輩で、アカデミアでは1年だけ共に過ごした。まぁ有り得ない密度の1年間だったから、長さの問題ではなく彼女のことはよく覚えているけれど(今でも結構会うし)。
 その1年間、レイは剣山の隣にあることが本当に多かったように思う。
 剣山は、自分と或いは十代と、更にそれに加えて準やヨハン、という組み合わせも珍しくなかったが、レイの方は殆ど剣山の隣にある姿ばかり覚えている。
 学年が違うのだから常に一緒という訳にはいかないだろうが、自分達が卒業した後はそれこそ2人並ぶ場面は増えたことだろう。

 その剣山がレイに告白をしたという。
 特に驚きはしなかった。剣山がレイを好きなことは多分剣山を含めた誰より早く気付いていた。
 本人の言う通り恋愛沙汰に関しては臆病というか奥手の剣山のことだから告白せずじまいの可能性は幾らもあるとは思っていたけれど。

 どうして剣山が今更そんなことを言い出したかというと、多分、というか間違いなく、レイの結婚が決まったからだろう。
 勿論相手は剣山ではなく。

「俺が告白した時、他に決めた人がいるっていうのは聞いたけど、誰だか分からなかったドン」
 ようやく、ハッキリした。
「納得したし、後悔はしてないドン。だから、これで良かったと思うザウルス」
「うん、そうっスね」
 寂しげで、けれど嘘のない言葉に、気のない肯定を返すしかすることがなかった。

『あ・・・、はい。えっと、凄く、ほんと凄く嬉しいんですけど、ごめんなさい』
『いえ、十代様は・・・何ていうか、そういうことじゃないんですよね。でも、』
『ボクは、ボクがいないと駄目な人を見つけてしまったので』

「応えられなくて、ごめんなさい。でもありがとうございます」
 最後にそうつけ加えて頭を下げるレイに、出来る限りいつも通りに笑って、
「いや、充分応えてくれたドン。俺こそありがとうザウルス」
 言いながら、小さな手と握手を交わした。
「卒業までもうあんまりないけど、これからも頼むドン」
「はい。卒業した後も、ずっと宜しくお願いしますね」
「!」

 そして剣山は卒業し、翌年レイも卒業して。
 剣山は4年間の勉強の後アカデミアの講師になり(そのすぐ後、先にそこにいた明日香は教授になった)、レイは近くの店で働きながら、偶に小学生以下を対象にデュエルの教室なんかをやっている。

「そういえば、兄貴はどうするドン?」
「万丈目君が引き摺ってでも連れて行くって言ってたっスよ。まぁ心配しなくても兄貴はイベント好きだから」
「レイちゃん、喜ぶザウルスね」
「だろうね」
 ヨハンは喜ばないかも知れないが。
「写真、幸せそうで良かったドン。ほんと、お似合いで」
 どう返したものか。自分は剣山さえそれでいいなら別にそれでいいけれど。

「まぁ、レイちゃんと剣山君もお似合いっていえばそうだったけど、両想いにはならないだろうなって当時から思ってたっスよ。僕は」
「酷いザウルス・・・。っていうか、俺がレイちゃんを好きなの気付いてたドン?」
「まぁね。大丈夫。多分僕とレイちゃんしか知らなかったから」
「え?」
「・・・レイちゃんは、気付いてたと思うっスよ」
 僕よりは遅かっただろうけど、多分剣山が自覚するよりは前から。
「そんな・・・」
 ショックザウルス、と言いながらテーブルに突っ伏す剣山に苦笑して、
「レイちゃん、あれで鋭いから」
「丸藤先輩も」
「いや、僕は・・・」
 まぁ、鋭いのか。あの頃周りの恋愛事情は本当に複雑になっていたけれど殆ど把握していたつもりだし。いや今も複雑だけど。

「・・・好きな人のことっスから」

 半分以上は酒の勢いか、気付けばそんなことを口走って、
「先輩・・・?」
 剣山は顔を上げて、じっと僕を見詰めた。
 10・・・20秒くらい経っただろうか、ようやく剣山が口を開く。

「先輩も、レイちゃんのこと好きだったドン?」
「・・・」

 うん。言うと思ったけど。


 ヨハレイに乗じて剣レイ&翔剣。本編終了8年後くらいかな。
 翔ってば報われない。でも翔は一生伝えないままだと思う。
 ていうかいい加減口調を改めろ。

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