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□夢見る少女じゃいられない
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「お久しぶりです。アリス」
「・・・ええ、そうね」
 クラウス。
 名を呼べば、彼は涼しげな銀髪を揺らして美しく笑った。

「どうして、私に?」
「どうしてって?」
 質問で返した私に、クラウスは何処か楽しそうに目を細めた。
「私は、もう何年も貴女とはお会いしてもいなかった」

 クラウスに、ラブレターを書いた。
 私と、結婚して下さいと。

「・・・お祖父様が、心配しているから」
 私は、何時の間にか20歳を超えて、その分、お祖父様は歳を取った。
 唯一、私が恩返しを望む相手の時間がどれ程なのか、定かではない。
「そんな理由で?」
 クラウスは微かに目を見開いた。侮蔑ではなく、純粋な驚愕。
「私には、幾らも相手がおりますし、それは多分、貴女も同じでしょう。それに何より、」

 貴女は、空操弾馬を好きなのでは?

「・・・そうね」
 あっさりと認めると、クラウスが肩を竦めた。
「でも、私は貴方に『何も求めない』事ができるわ」
 私は貴方を好きにならないけど、貴方に私を好きになって欲しいとも思わない。
「クラウスなら、その価値を分かってくれると思ったの。それで充分じゃないかしら。恋愛なんてそれ程重要な物じゃないのよ。無くても結婚くらいできるわ」
 だって、私は『彼等』を知っている。

 私の為に生まれたマスカレードと、私の為に死んだリンク。
 私がどれだけダン君を好きでも、そちらの方が恋なんかより遥かに重い。
「恋が、世界を作る訳ではないわ。貴方がセイレーンを手放したように」
「・・・そうですね」
 かつて突如世界に現れた爆丸達は、半年で彼等の世界へ戻って、けれどその2年後に、また唐突な再会を果たした。
 その時のクラウスは躊躇い無くワンダーレボリューションに渡って起業し、セイレーンの傍での生活を確立して見せて、HEXとの戦いにも尽力した。
 それでも彼は、そのHEXとの決着を期に、セイレーンに再び別れを告げたのだった。

「私にとっても、セイレーンにとっても、これが幸せかは分からない」
 でも、世界は曲げられないでしょう。
 ぽつりと。言い訳のように。
「・・・そうね、分かるわ。私もヒュドラを手放したもの」
 再会できた事の方が、いや、そもそも出会えた事が奇跡だった。世界は決して交わらない筈だった。
 その繋がりを今尚捻じ曲げて良いのは、きっとドラゴとダン君だけだ。
 パーフェクトコアとして世界に自身を捧げる選択を出来たドラゴの。
 命をかけて共にあったドラゴのその選択をあっさりと許容して見せたダン君の。

「・・・まあ、爆丸はとても長寿だそうだから、」
 クラウスがふいに明るい声を出した。
「セイレーンの中で、綺麗なままの私で居られるなら、良かった」
 それとアリス、ひとつ誤解しています。すっと歩み寄る。ああ、こんなに見上げなければならなくなったのか。
「私は、貴女が好きですよ。もう、ずっと前から」
 クラウスの腕が私を閉じ込めた。すらりと長い、しかしあの日私を諭した少年とは確かに違う、男の腕。
 私も、ダン君を殺す事さえ躊躇わないくらいに彼に認めて貰いたかった強さへの渇望はとうに消え去って、いつまでも夢見る少女で居る事は叶わない。
 不安定で、熱く、苦しく、美しかったあの時間は戻らない。
 もしかしたらダン君だけは、あの頃のまま変わらないのかも知れないけれど。

 このまま消えれば私もダン君の中で綺麗なままで居られるだろうかと、そんな事をふと考えた。


 認知度の低さに一言申したいクラアリ。40話が未放送なばっかりに・・・!
 タイトルは相川七瀬の曲名から。

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