遊戯王

□深すぎる赤は黒く、黒く
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「ねぇ、死なないでよ?」
「うっ・・・ぅ」

 ユベルは不満げな表情で、横たわるヨハンを見下ろした。

 ヨハンの全身には酷い傷痕。
 打ち身、擦り傷、切り傷、火傷。

「殺すのはいつでも出来るんだから」
「・・・なら、今でもいいんじゃねぇの?」
 低く、低く、掠れるような、声。
 ユベルはにこりと笑う。
「うん。今でもいいよ? でもね、生きてる君をいたぶるのは今しか出来ないじゃない? それに・・・」

 どうせなら、十代の、目の前で。

「悪趣味・・・」
「まぁね。でも、君なんかに騙されてる十代も相当だよ?」
「誰が」
 騙してなんか。

「・・・ねーぇ、ボクが十代の前で君を殺すのが、どうしてだか分かってる?」
「あいつを、苦しめる為、か?」
「はずれ。反対」
「・・・?」

「君を、苦しめる為だよ」
「はっ」
 どういう、
「君が死んだくらいで十代が悲しむ訳ないじゃない」
「・・・」

 あまりにも、自然な調子で。

 多分、思い上がりではなく、自分は十代の友人で。
 優しい彼が、悲しまない訳が、

「君は何も知らないね」
「十代は君に騙されてる」
「でも君も十代に騙されてるよ」
「君が死んだら十代は気付くよ。泣く必要なんてないことに」

「可哀想な、ヨハン」

「・・・」
 楽しそうに目を細めるユベルは、こんな状況でさえなければ、寧ろ、

「お前だろ」
「・・・・・・・・・・・・何、が」
「泣いてもらえないことが、怖いのは」
 可哀想、なのは。

 狂っている。理解など出来ない。
 けれど、分かる。目の前のモンスターは、かつてのマスターを心から愛している。
 それだけで、
 あまりにも、それだけしかなくて、
 理性を保てない程に。

「面白いことを、言うね?」

 ユベルはゆっくりとヨハンに歩み寄り、
 ふわりと微笑むと、
 持ち上げたその足で、
 思い切り腹を蹴りつけた。

「――――――っ!!!?」

 ぐ ぢ ゅ

 長い長い足の爪が腹を突き破って。
 そのまま足は下へ、下へ。

「ぅ・・・あ゛、あぁあああああああああああああああっ!!」

 涙なのか他の何かなのか、前など見えなくて、それでも、
 笑って行為を続ける目の前の彼(或いは彼女)の、
 美しい、と、確かに思った、三日月にも似たあの瞳から、

 一滴、

 確かに光ったような気がした。


 ヨハユベのつもりなんですが(どこが)。
 ヨハ子はユベたんのこと嫌いだし怖いけど憎くはないし怒ってもない。
 あの無駄に長い足の爪を凶器にして欲しかっただけです(最低)。
 書きながら、本当にうちの十代はヨハ子が死んだくらいじゃ泣かなさそうだわ、とか(えー)。

03 細い月から一滴の愛 (Short message)

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