遊戯王

□十代と万丈目とユベル
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「なぁ、チョコレートくれよチョコレートー」
「あぁああ喧しい黙れ! 本当に欲しいならまず手にあるそれを隠せ!!」
 騒ぎ立てる俺の手には、レイ、明日香、翔、剣山、それに吹雪さんから貰ったチョコレート。
 実はヨハンとエドからの分も寮に届いていたり。

「お前だって明日香から貰ったじゃねぇか」
 あそこは多分兄妹そろって、この日に貰う数も一ヶ月後に返す数も学園一だ。
 吹雪さんはともかく、何故この日に明日香が山のように貰っているのか。

 あ、あと、レイからも貰ってたし。
 そう続けた十代がレイから受け取ったチョコレート・・・否、チョコレートケーキはどこをどう見ても相当に力の入った手作りで、
 俺を含め剣山や翔にばら撒いていたのはこちらもどう見たって市販品だ。
 綺麗なハート型がいっそ白々しい。
 というか、そういう話ではなく、

「請求するなら誠意を見せる所からやったらどうだと言ってるんだ」
「ないもの見せるのはちょっと難しいな」
「貴様・・・!」
 本気で頭に来たらしく、その場で声高な言い争い。

 しばらく押し問答を繰り返していたが、ふいに万丈目は俯いてはぁーと長く息を吐いた。
「あぁもう分かった! 買ってやるから黙れ」
「わ、マジで!?」
 言いながら万丈目が向かったのは製菓用の味気ないパッケージの並んだ棚で。

「あ、そういうことやる?」
 別に何でもいいけどさ。
 万丈目はふんと鼻を鳴らして苛立ったように靴を鳴らした。
「どうせなら何か作ってやると言ってるんだ」

 いや言ってないと思うけど。
 まぁこいつの意地っ張りに一々反応していたらキリがないか。
 こいつだって俺の我儘に一々反応してたらキリないんじゃないかなぁ。とか、今更だけど。

 思いつつ、真剣にチョコレートに向き合う万丈目を見るともなしに。
 作ると言いだしたそれは、多分真面目なあいつの中でバレンタインってのはそういうものだと認識されているからなのだろうけれど。
 それでも喜ぶところには違いない。
 それなり以上に腕が良いことも知っているから尚更(財閥の子息ってのは一体どんな育ち方をするのかあいつは本当に万能だ)。

「そうだ。その代わり、」
 ようやく決めたらしくビターとミルクの板チョコを抱えた万丈目は、ちらりと睨むように十代を振り向いた。

 ・・・その代わり? チョコを渡す代わりに、か?
 その代わり・・・何だろう。お返しの請求・・・は、ないな。暫く近付くな、とか?
 そういうのなら頷いておこうか。俺が嘘付きなのは今更だし。

「一ヶ月後にはお前も買うんだぞ」
「へ? お前俺に貰いてぇの?」
 揶揄でも不満でもなく、単純にその言葉が意外で聞き返すと、また呆れたように息を吐いて、少し咎めるような視線を俺に向ける。

「・・・ユベルの分だ」

 俺が渡しても喜ばんだろう。そんな風に続けるのが聞こえて。
 静かに、祈るように、彼女の幸せをも祈る万丈目に、
 そのひとのイメージがちらついて、
 気が付いたら抱き締めていた。

「お前が気にすることじゃねぇよ」
「・・・貴様ここをどこだと思ってやがる」

 固めた拳に反射的に体を離した。
 俺がスキンシップ過剰なのは今更なのに。
 あぁでもこいつが振り払わなかったらおかしいか。

「女性は大事にするものだ」
 購入したチョコレートの袋を鳴らし、先に立って歩く。
「・・・良く分かったな」
 今のあいつに性別はないようなものなのに。
「闇に落ちていた間、少し・・・こう、意識が交じっていたというか、あいつの感情が流れ込んできたんだ」
 十代に対する酷く熱く、一方で冷たく静かなしかし激しく重く痛く哀しい、
 心底愛おしむその想いを、
 それが正しかったかどうかはさて置いて、

「ありがと、万丈目。でもあいつだってあいつなりに幸せさ」
 せめて俺達は認めてやろう。
 それしか出来ないし、あいつはそれで満足だと言うだろう。

 そもそも幸せは過去や未来にあるものじゃないし。
 いつだって、幸せなのは今この瞬間だ。

「全く、貴様などのどこがそんなにいい?」
「おいおい。お前が言うのかよ」


 十万バレンタイン。うちでは珍しく甘い方かな?
 皆島の外へは買いに行けないので、10日辺りから購買で売り出す、とかいう設定。
 明日香さんとレイちゃんとヨハンは手作り(・・・)。翔と剣山は自分が好きなやつ。
 エドは無駄に高級なブランドの新商品ないし限定品とか。
 じょめはユベルのことが真面目に心配って言うかなんていうかで、十代にもユベルを好きでいてあげて欲しいと常々思ってます。

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