□Io chiamo.
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「ツナ兄、会いたかったよ!」
「オレもー!!」
 勢いよく扉を開けて、2人は綱吉へ駆け寄った。2人をここまで案内した隼人は「騒ぐんじゃねぇ」と諭しながら、内心仕方ないか、と思ってもいた。

 3年前、綱吉が高校に上がるのと殆ど同時にイタリアへ渡っていたフゥ太とランボが、ようやく戻ってきた。
 結局ランボの面倒を見続ける羽目になっていた綱吉だったが、高校に上がってからは高校生としてが少し、そして大半がマフィアの次期ボスとして忙しくなり、自然、ランボの教育係は11歳になったフゥ太へと移行した。
 それから色々と複雑な事情があってイタリアで暮らす方が良いだろうということになり、2人はボンゴレの管轄の元、綱吉が高校に通っているその間イタリアの地で生活していた。

 そして今日、高校を卒業し、ボンゴレファミリーの10代目ボスとなる綱吉の守護者の1人として、ランボと、その教育係であるフゥ太は実にほぼ丸3年ぶりに日本へ戻って来た。
 具体的には、ファミリーを上げて新しいボンゴレ守護者を任命する式典を行うので、それに出席する為に。
 それが本部でなく日本で行われるのはボスの我儘で、そのお陰でランボもフゥ太も、これからはまた日本で暮らすことが出来る。
 2人とも生まれはイタリアだが、愛着はたった2年と少しを過ごしただけの日本にあった。正確には、そこに住む者達に。

「お疲れ様、フゥ太。それにランボも」
 にこやかに、新品のスーツを纏った綱吉は言い、
「うん! 久しぶりだね、ツ・・・」
 ナ、とその唇は形を作ったけれどそれは辛うじて音にはならず、一度口を閉じて開いたランボは、何もなかったようにまた笑って続けた。

「・・・ボンゴレ、10代目」

 その響きに微かに目を見開いたフゥ太とは対照的に、綱吉もまた何もなかったように笑みを崩さない。
「3年ぶりかな」
「そう。オレ、もうすぐ10歳何だよ。それでね、フゥ太は14歳!」
「そっかぁ。大きくなったね」
 長髪には違いないが、それでも頭部を覆う程だった髪は随分落ち着いて、綱吉は髪の流れに沿うようにゆっくりと撫でた。
「ちゃんとぴったりのを用意させたから、ランボもスーツ着ておいで。式典は退屈だろうけど頑張って我慢してね」
「分かってるよ。だってオレ、ボンゴレの雷の守護者だかんね!」
 自分を『ランボさん』とは呼ばなくなり、頭身も当時とは比べるべくもない。しかしそれでも言うまでもなく歴代最年少の守護者は元気良く返事をして、機嫌悪そうに煙草を噛んでいる隼人に連れられて部屋を後にした。

「ほんとに分かってんのかなぁ・・・」
 苦笑してその足音を見送ってから、綱吉はフゥ太に向き直った。
「改めて、久しぶりフゥ太。すっかり見違えちゃった感じだね。ランボ程じゃないけど」
「うん。身長何か結構一気に伸びたから関節痛とか酷かったよ。もしかして抜いたかもって思ってたけど」
「あは、そうだね。最後に会った時は俺が今のお前と同い年くらいだったもんね。あの時の俺よりは高いね」
「・・・ねぇツナ兄」
「ん?」
「僕、この3年間ずっとランボと一緒にいて、でもランボがツナ兄をあんな風に呼ぶなんて思ってもみなかった」
 その言葉に、先の呼称はフゥ太の教育によるものではないと知る(彼の反応で予想は付いていたが)。
「子供は勝手に成長していくものらしいからね」
 それでも、もう3,4年は面倒見てあげてね。とおどけるように綱吉は続けたが、フゥ太は笑顔をひっこめたままだった。

「マフィアって、何なのかな。僕にとってツナ兄は本当にお兄ちゃんみたいな人で、ランボは弟みたいな奴だよ」
「そうだね。俺もお前やランボのことは弟みたいに思ってる。俺の自意識過剰でなければ向こうも」
「・・・・・・兄弟みたいに思う人を、名前で呼んじゃいけないのがマフィアなの?」
 滅多に聞かない悲痛な声だった。

 フゥ太は極めて幼い時期にその特殊能力が知れるなり、世界中のマフィアから一目置かれ同時にまた狙われる事にもなった。
 ある切っ掛けからランキング能力はとうに失われ、それが広まり今では外に出る度に黒服を警戒して常に周囲に目を走らせることはないけれど。
 それでも極早くに否応なく巻き込まれたフゥ太は、だから組織の末端の者達などよりは余程その世界を見聞きし続けてきたけれど、それでもフゥ太はマフィアではない。

「それは俺にも分からない。ただ、ランボが決めたことにとやかく言う気は少なくともないよ」
「さっき、ツナ兄驚かなかったね」
 ボンゴレ、とランボが口にした際、綱吉は眉ひとつ動かさなかった。代わりに、ほんの一瞬微かに寂しげに目を細めただけだった。
「・・・俺は、ずっと前からいつか確実にこの日が来ることを知ってたからね」
 もう少し先の、今の綱吉よりも目線の高くなった彼は、若きボンゴレ、と自分を呼んだ。
 獄寺氏、とか、ハルさん、とか。それも多分近い未来に。

「正直、実感はさっきまでなかったんだけどね」
 何度注意しても懲りずに部屋中を走り回り、ゲームに興奮して跳ね廻って、我慢と言いつつも堪え切れず大声を上げて泣いてばかりいた(これは今もか)当時の彼と、今思うと大して大人でもないが、それでも落ち着き払った物腰の『大人ランボ』を同一視するのは至難だったし、特にする必要もなかったし。
 けれど、当時の面影を残しながら彼が未だ高い声で自分をボンゴレと呼んだ瞬間に、その2人は目の前の彼を中継して矛盾なく繋がったような気がした。
 それはフゥ太の感覚と大きく逸れるものではなくて、綿が胸に詰まったような感覚は未だ拭い切れていないけれど、
 けれども自分はこれから先、こんな感覚を更に煮詰めて黒く染めたような感覚を飽きる程味わう羽目になるに違いない。だからといって慣れていい訳ではないが。

「・・・大丈夫。ランボにとってのフゥ太は、多分いつまでもそのままだよ」
 何の救いにもならないと知りつつ言葉をかけた。沈黙は嫌いだ。フゥ太との間のそれには特に不慣れだし。
「それと、俺にとってのお前やランボもね」
 ついでにそう繋げると、フゥ太はようやく少し安心したように力なく微笑んだ。


 誰にとっても一番幸せだったのはつー様が中学生だった時なんじゃないかなーって。だから変化が嫌で仕方なくて、あの時と変わらないよって言ってもらうと少しは安心。
 5歳ランボと15歳ランボの中間を意識したんですが、かけ離れ過ぎてて真ん中がどこなのか分かりませんでした。

備考:「Io chiamo.」=「呼ぶ」

止まって欲しいの、秒針 (13の部屋 佰)

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