□adottante
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 私にとって母親というのは、殺伐として、凛として、死の雰囲気を、マフィアの妻の空気を、一部の隙もなく纏った人だったから、
 だから、死んだってそんなに傷付くものではないと思っていた。

 ママンと2人連れ立って、先日ランボが幾つか纏めて割ってしまったので、商店街で食器を見て回る。
「ねぇビアンキちゃん、これはどう思う?」
「いいんじゃないかしら。シンプルだし、可愛いと思うわ」
 クローバーが描かれた皿を幾つか手に取ったママンに微笑んだ。
 じゃあ、とママンは色違いのものを選んで重ねる。

「6色しかないのね」
 手元を覗き込んで呟く、重ねられたのはピンク、水色、黄緑、黄、薄紫、橙の6種で、
 今沢田家には、ママンとツナとリボーン、それにイーピン、ランボ、フゥ太、そして私、と7人の人間が住んでいる。
 住み始めたのはいつだったか。来日した日は覚えているが、ホテルをチェックアウトした日は忘れてしまった。
 それほど『いつの間にか』受け入れられていた。

「そうねぇ・・・」
 ママンはさして悩んだふうもなく、ピンクの皿をもう1枚上に重ねた。
「ピンクのはビアンキちゃんとリボーンちゃんの分ね」
「え?」
 予想外の言葉に顔を向けると、どこかいたずらっぽく笑うママンと目が合って。

「こっそりおそろいにしちゃいましょう?」
 そう言ったママンの顔は、多分娘の恋を後押しするそれで、
 何故だか急に凄く恥ずかしくなった私は黙ったままでひとつ頷いた。
 リボーンへの感情を恥じたことなど今まで一度もない。ただ、私を娘のように扱う視線に耐えかねただけ。
 私よりも大分背の低いママンはどうも非力に見えて、だからという訳ではないが、帰り道、皿の入った袋は私が受け取った。

 私は母親が死んでも、それが実は殺されていたのだとしても、家出だなんて馬鹿なことは絶対しなかっただろうけど、今ママンが殺されたら後先考えずに報復に行ってしまうのだろうと思う。
 そういえば遠くからしか見たことはなかったが、確かあの人もこんな雰囲気の人だった、と遠く思い出して、それを知った時まだ8歳だった隼人はどれだけ泣いたのかしらと他人事のように今更思った。

 彼を、彼は望まないと知っていて哀れに思う傍ら、
 そうして泣ける方が余程幸せなのではないだろうかとも思う。

 つい、立ち止まってしまって、目と鼻の奥がつんと痛んで、
 どうしようどうしようとどうしようもないことを考えていたら、一歩先で立ち止まったママンが黙ったまま静かに微笑む気配がした。

 何で、こんなに強い。
 そうだ、ママンだって、マフィアの妻だ。
 でも、そんなこと言ったら私だって殺し屋なのに、

( あぁ、 )

 死の匂いのしない母親は、皆こんなに強いのかしら。
 だとしたら、私はもう随分前から手遅れだけれど。

 ママンが背伸びをして、小さな手がそっと私の頭を撫でた。女の人にそうされるのは初めてだった。
 暫く涙は止まりそうにない。


 両親は健在だけど甘えられない(というか『子供』扱いして貰えなかったから『親』として見れない)ままで育ったビアンキさん。
 ビアンキさん熱急上昇。『17歳の女の子』なビアンキさんに萌える。
 あとビアンキさんのことをちゃんと子供扱いしてるママンに萌える。

備考:「adottante」=「養母、養い親、受け入れる人」

333 罪を犯した、戻りたかった、でも後ろには錠の付いた厚い扉(Short message)

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