□僕が君に会いたい理由
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 初めはちょっとした執着だったように思う。





 君は知らないだろうけど僕はあれから何度も君を訪ねようとしたんだよ。
 その度タイミングが悪かったり僕の勇気が足りなかったりしていつもいつも後少しの所で達成出来ずにいたのだけど。
 だって何だかんだで酷い目に遭うことも多かったから本当に勇気のいる行為だったんだ。第一印象も最悪だったし。
 そして徐々に君の家へ向かう頻度は下がって、僕は何時の間にか高校生になっていた。スパナと知り合ったのはこの頃だった。

 いつもいつも後少しで手が届かない君に、高校を卒業して少しした日に今日こそはとそう決めて、本当の本当に決意して、君の家の呼び鈴を実に5年半ぶりに鳴らした。5年以上も経っておいて、僕の得られた成果らしい成果は、遠耳に聞いた君のフルネームくらいのものだった。
 けれども君の母親は少し困った顔で君は滅多にここには帰らないのだと教えてくれた。言伝ましょうかと言ってくれたけれどここまで来たら引き下がれなくて断った。何としてでも自分の手で。
 あまり詳しくは聞けなかったけれど進学や就職や、そういうことが理由ではないらしいことは何となく推し量れた。

 俗にいう情報屋に君のことを聞いた。辿り着くまでに半年かかった。
 僕の科学力だか技術力だかは僕の知らない間に黒い意味でいう世界の裏側にまで広まっていたので破格で請け負って貰えた。
 そして君が、沢田綱吉がマフィアのボスだと知る。

 正直困った。ボンゴレファミリーのアジトの位置は分からないし、世界最大級のマフィアのボスだなんて、僕みたいな、もうこっちに片足突っ込んでるとはいえ一般人が簡単に会えるものではないのだろう。
 長い間困って、少し後に、僕はあの人と知り合った。
 沢田綱吉に会いたいんでしょ。会わせてあげるよ。どこで聞いたのか白蘭さんは開口一番そう申し出た。
 会いたいなら同じ世界へ飛び込まなくちゃ。話したいなら同じ高さへ上り詰めなくちゃ。事もなげに、白蘭さんは言う。
 程なく僕はジェッソファミリーの化学班に配置された。そのまま5年程が経過する。僕はファミリーのNo2になっていた。

 そして去年、No2はユニという少女に変わる。同時にファミリーの名前も変わった。
 ミルフィオーレファミリーはボンゴレファミリー以上の勢力を持つマフィアになった。
 暫しあって、イタリアの白蘭さんから命が下る。
 ボンゴレボスを話し合いに呼び出し、口を開く暇もない射殺。僕はその場には居なかった。

 全て終わったようでいて、それでも白蘭さんはボンゴレリングを欲していたから、僕のアレを動かす良い理由になった。
 10年前の沢田綱吉及びその守護者の一部を確認。けれども予想に反して彼らはしぶとい。
 そして想定外の先手を打たれての襲撃。
 少ない手駒が更に減らされるのは胃を締め上げられる思いだった。
 けれど、

「・・・・・・・・・ついに・・・、・・・・・・・・・・・・・・・やったのか・・・」

 スパナが相打ちながらも沢田綱吉を撃退したという。
 彼は用水路へ落下。焼死か、内臓破裂か、溺死か、何であれ、恐らく彼はもう生きてはいない。

「10年前からきた沢田綱吉を」

 2度目の沢田綱吉の死。随分手こずらされたがこれで予定通りだ。後は基地を動かして他の守護者を摘んで行くだけ。
 なのに、何故だろう。
 胃よりももっと高い位置が酷く痛む。目眩が治まらない。





 君は知らないだろうけど僕はあれから何度も君を訪ねようとしたんだよ。
 だって、僕が最初に君に会おうとしたその目的を僕はまだ果たせていない。
 『ボヴィーノ夏のおわび詰め合わせ』と間抜けな名を打たれたその箱は今でも僕の自室に置いてある。ワインもオリーブオイルもパスタも勿論札束も手榴弾もそのまま手つかずで箱に眠っている。

 あの箱はきっと、最初で最後の繋がりで、
 なのに、僕は2度も君を殺した。
 通信員達の控えめな歓声が聞こえた。
 酷く遠かった。

 どうして僕は沢田綱吉の死亡報告など聞いているのだろう。
 まだあの箱を返せていないのに。
 そもそも僕は何故こんなにも必死になっているのか。この10年を他人事のように思いながらぼんやりと考える。
 その場に倒れそうになってどうにか踏みとどまった。

 ・・・そうだ、やっと思い出した。





( 沢田綱吉が、好きだったんだ )


 前提的に私の頭の中にあった話。
 何か本誌で正ちゃんがつー様の仲間になった(?)とかって聞いて、早く出さないと書けなくなる!と思って急いで執筆。
 どんだけ不器用な恋しますかこの子は。

293 失くしてから気付いたんじゃない、気付いてから失くしたんだ(Short message)

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