他ジャンル

□Little merman
1ページ/1ページ

「演劇?」
「そ、演劇!」
 いつものように紅茶とお菓子を囲んだロイヤルガーデンで、僕の疑問に結木さんが弾むように答え、ね、いいでしょ唯世、と続けた。
「折角ガーディアンに任せられたステージ何だもん。何か面白いことやりたいじゃん!」
 ひと月程後に控えているのは、聖夜学園小では学園祭、体育祭に次ぐ行事で、基本的には学園祭のような様相だが、それとは違い行われるのは殆どがステージでのパフォーマンスで、更に参加者はクラス単位ではなく部活や有志などが殆どだ。
 そして当日の開会式、閉会式、更にステージのトリがガーディアンに委託された仕事だった。

「・・・で、演劇?」
 心なしか笑顔の引き攣る日奈森さんに、結木さんは益々楽しそうな表情で、うん、演目も決めてるんだよ、と身を乗り出す。
「何やんのよ?」
「えっとねー、人魚の話! あたしとりまでシナリオ作ってるの!!」
「へー・・・」
 意外、普通、と日奈森さんが呟いたのが聞こえて苦笑した。確かに結木さんが言い出したら突拍子もない方へ突き進みそうな気はしてしまう。
「主人公は日奈森さん?」
「え!?」
 何となく、そんな疑問が口を付いた。
「人魚姫の役は、日奈森さんじゃないの?」
「ちょ、ま、待って唯世君! そんな、何で・・・」
 何であたしなの、りまとかがやった方が、
「んー、確かにあむちーは主役向き何だけどさー」
「は!? ややまで何言ってんの!」
「今回はさぁ、主人公男の子だから」
 日奈森さんの講義は無視して結木さんが残念そうに言うと、皆の疑問符がそちらへ向いた。

「主役が男子とは、どういうことです?」
 三条君が訊くと、えへへー、と笑って一拍置き、
「あのねー、普通にやってもつまんないから、男女反対にしようかと思って」
「それは中々興味深い試みですね」
 眼鏡を押し上げながら言って、良いな、楽しそう、と声をあげたのはペペとクスクス。
『じゃあさ、じゃあさっ!』
 ランがぐるりと日奈森さんの周りを一周して、
『人魚姫じゃなくって、人魚おう・・・むぐっ!』
『ラン、しーっ!』
『唯世君の前でそれは禁句なんですぅ〜!』
 何かを言いかけたランはそのままミキとスゥに取り押さえられた。

「で、」
 騒がしくなった場を三条君が遮る。
「結局、誰が主役なのです?」
「んっとねー、人魚が海里でね、」
「お、れ・・・?」
 微かに目を見開いた三条君に、そうだよー、だって海里、名前に海って入ってるし、と良く分からない理由を軽く告げ、言葉を続ける。
「で、王女があむちー、んでもって、・・・が唯世!」
 何故か僕の配役だけ声を落として告げる。けれど聞かずとも察した。
 つまり正規の役回りだと主人公の人魚姫が三条君、それに助けられる王子様が日奈森さん、そして人魚姫の恋敵のお姫様が僕だ。

「え、ちょっと待って、やっぱあたし出るの!?」
「いいじゃーんあむちー可愛いんだからー」
「それにあむがヒロインの方が演技に身が入るでしょ?」
 真白さんがぽつりと言って、僕と三条君に視線を滑らせた。
「で、でもあたし・・・」
 日奈森さんがうろたえて何かを言いかけ、俺も主役などと、と三条君の声がそれに重なる。
「でも、良いじゃない。やってみようよ」
「唯世君、」
「キング・・・」
 声を上げると、2人がこちらへ視線を寄越す。2人共、本気で嫌がっている訳ではない。
『そうだ、良く言ったぞ唯世!』
『うむ。海里よ、何事も経験だ』
『ダイジョーブ! あむちゃんなら出来るよ!!』
「よっしゃー! じゃあけってーい!!」
 結局はそれぞれのしゅごキャラ達に諭され、配役はそのまま決定した。

 海の国に生まれた人魚の王子は、陸の世界に憧れ海面の向こうを眺め続ける。
 ある日見付けた大きな客船に美しい王女、嵐に自壊した船から人魚は王女を守り、陸へ送り届け、王女は息を吹き返すが人魚の姿を覚えておらず、隣国の王子をそれだと思い込んでしまう。
 そこで人魚は海の魔女の元を訪れ、その声と引き換えに刺すような痛みと二本の足、そして愛が実らぬ場合の死のリスクを得た。
 再会。しかし彼女は彼が分からない。言葉も文字も持たぬ彼には何一つ自身を伝える術はなかった。
 美しい髪を失った姉は、王女の命と引き換えに貴方は海に戻れるのよと泣いた。けれども王女の隣に立てぬ尾など、もはや彼には無意味であった。
 訪れる運命。姫と王子を結んだ愛は、人魚の命を絶ち切った。

『悲しいお話だね・・・』
 ランが呟き、そうだね、と日奈森さんが苦笑する。
「でも、これってアレだねー。唯世が悪役になっちゃうね」
 結木さんの言葉に、主人公の想いを潰し、間接的にその命までも奪う役回りは、悪気はなくともやはり悪役に映るだろうなと思う。
「じゃあ、ハッピーエンドに書き換える?」
 ディ●ニーみたいに、と、真白さんがさらりと乾いた意見を吐いた。
「あー、事情を知って人魚に王女を譲ってあげることにするとかどう?」
「いや、良いよこのままで」
 結木さんの意見を遮ってシナリオを受け取った。

 構うものか。多少印象が悪くなったから何だというのだ。
 それでも、彼女は渡さない。


 別に悪役でも良いよ。それで日奈森さんと結ばれるんなら。
 亜夢ちゃん小学6年生前半。スパイ発覚より前。三条君vs王子。
 何か王子の性格悪くてすいません。三条君好きです ←

258 さよなら、人魚姫

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ